1. 米国では、74年、企業年金加入者の給付の保護を目的に、包括的な企業年金法である従業員退職所得保障法(ERISA)が制定された。母体企業の倒産による年金給付の喪失、退職直前まで受給権を認めない制度設計といった、当時の企業年金の抱える諸問題が同法制定の背景にあった。
2. ERISA制定後の25年間、米国の年金規制へのアプローチは一貫性を保ってきたとは言い難かった。80年代の財政赤字急増により、退職給付の保護よりも、企業年金への税制優遇縮小による政府の歳入増を優先する年金制度改正が行われた。
3. ERISA制定後の25年間に米国の企業年金は大きく変化した。確定給付型プランが減少し確定拠出型プランが着実に増加したのである。原因としては、ERISAにはじまる複雑な規制による確定給付型提供のコスト上昇、年金給付保証公社(PBGC)保険料の負担、企業経営環境の変化や雇用の流動化、がしばしば指摘される。
4. このような現状をふまえ、米国における企業年金制度改革の論調としては、複雑な規制の緩和を主張する意見と、ERISA導入後、企業年金加入率が横這いのままだった現実を問題視する意見がみられる。
5. 我が国においても、包括的企業年金法の導入が中長期的課題とされているが、その際、米国の規制の直輸入は無理である。企業年金はあくまで企業が自発的に提供する任意設立のものであることを念頭に、我が国企業にとって年金プラン提供のインセンティブ向上に結びつく制度改革が求められよう。
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