1. 米国では、企業年金加入者の受給権が従業員退職所得保障法(ERISA)により規定されていることから、事後的な給付引き下げによる要積立額の縮小といった方法は許されず、企業には年金積立不足解消の義務が極めて厳格に課せられている。
2. そのような制度の下で、企業がいかに積立不足を解消したかを、積立不足が深刻で年金給付保証公社(PBGC)の関与を得たものに焦点を当てて見ると、企業本体が経営難に瀕しながらも拠出を行ったり、同一企業グループ内の企業が拠出に応じたりする姿が浮き彫りにされた。また、買収・合併などにより年金プラン・スポンサーが変わる場合は、年金積立不足に対する責任の所在が明らかにされていた。
3. 給付保証を任務とするPBGCが、企業の積立不足解消に関与するのは、PBGCが基金破綻の予防を目指す「早期警告プログラム」を押し進めているからである。PBGCは設立以来、いわゆるモラル・ハザードの問題への対処に追われてきたが、80年代後半から、基金の破綻を未然に防止しようとする予防医療的なアプローチへと転じた。早期警告プログラムもそのような中で導入された。
4. 我が国においては、企業年金の積立不足問題が深刻な中、21世紀に向けた包括的企業年金法制定の動きが始まっており、受給権の明確化や給付保証制度の導入が検討項目に挙げられている。給付保証制度については、米国の経験を参考にしつつ、導入の是非や既存制度の活用の可能性を含めて、広く国民の議論を経た上で決定される必要があろう。
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