1. 米国企業年金において、年金の管理・運用に関わる受託者の責任は、監督当局の労働省および年金基金加入者等から訴訟を通じて厳しく問われている。
2. 企業における取締役の会社および株主に対する受託者責任より、年金運用における受託者責任が厳格なのは、年金基金という法律上のスキームの中で、年金加入者等が自己の資産の管理・運用を半強制的に委託せざるをえず、かつ受託者との信認関係を制度上容易に解消しにくいためである。
3. 受託者は、受託者保証保険への加入が義務づけられているほか、訴訟によって支払い義務を負うことになる損害賠償額を補てんするために受託者責任保険に任意加入するのが一般的である。受託者責任保険は、取締役や役員が株主からの訴訟に備えて加入するD&O保険に類似しE&O保険とも呼ばれる。
4. ワイアット社の調査によると、回答企業(運営する年金基金)の9割が受託者責任保険に加入し、その1割弱が訴訟を受けている。訴訟に要する費用も8年前の6倍増となっており、保険料も増加している。また、受託者責任保険の引受シェアは、Chubb Corp、Aetna、AIGの3社でほとんど占められている。
5. 我が国においても、年金運用における運用機関の受託者責任に関する具体的な検討作業のほか、金融サービス法、消費者契約法などの立法によって厳格に受託者責任が追及されるような環境ができつつある中で、このような受託者責任保険のニーズも高まってくると考えられる。
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