1. 2002年7月、柳沢金融担当大臣の私的懇話会が、わが国の金融の将来ビジョンに関する報告書を発表した。わが国の金融に関しては、不良債権問題など目先の重大な案件に話題が集中しがちであるが、目先の問題への対応策を考える上でも、中期的なあるべき方向性に沿った政策がとられるのが望ましい。その意味で今回の報告書は時宜を得たものである。
2. 報告書で強調されていることは、リレーションシップではなく、市場をベースとした金融取引を拡大していくことである。そのためには、銀行の貸出金利も、信用リスクを的確に反映したものに変化する必要がある。貸出債権の証券化も活発化する必要がある。また市場原理に合わないサービスを提供している公的金融機関のあり方も見直される必要がある。
3. 報告書は、国民の利便性向上や、証券市場の拡大のため、銀行が、系列証券会社などを通じて、店頭で株式を販売することを可能とすることも主張している。
4. しかし、今、日本の国民が銀行に求めているのは、株を売ることではなく、預金や送金など、ごくあたりまえのベイシックな銀行サービスを安心して利用できるようになることであろう。銀行の健全性をいかに回復するか、という最も重要な課題について、行政の明確なコミットメントが示されていない点が、本報告書の重大な問題である。
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