資本市場クォータリー 2006年夏号
資産から見るバブルと「失われた10年」
宮本 佐知子
要約
  1. わが国の景気拡大は、2006年4月でバブル景気(1986年~91年)の51カ月を超えた。バブル景気の経験を振り返るとき、これまでは一般に「負の遺産」に焦点を当てた分析が多く、「バブルの果実」を手にした部門があったことは忘れられがちであるようだ。


  2. 国民経済計算(SNA)によると、土地・株式の1985~2004年の累積キャピタルゲイン(未実現も含む)は家計が399兆円、企業が54兆円である。実は、家計には企業の7.4倍のキャピタルゲインが(主に土地から)生じていたことがわかる。


  3. では、このキャピタルゲインのうち、どの程度が実現利益となり、経済に直接影響を及ぼしたのだろうか。税収データを用いて、家計が得た土地売却益の規模を計算したところ、最盛期(1991年)には年間18兆円、1985~2003年の累積で130兆円の売却益を手にしていたことがわかった。同時期のキャピタルゲインと比べると、利益が実現された割合は約4割と推定される。


  4. ただしこの売却益を手にできた人は、最盛期でも労働人口の0.9%にしか相当しない。「バブルの果実」はごく一部の家計に集中し、大半の家計は一般に考えられている通り、バブル崩壊後は厳しい状況にあったと考えられる。そのため、バブルの直接的な資産効果についても、限られた人のみに影響を及ぼしたと考えられる。


  5. この「バブルの果実」を手にできたのは、主に60歳以上の世帯の一部であり、消費よりも貯蓄に、その中でも特に現預金などの形で温存されてきたと見られる。バブル崩壊後の経済停滞期は「失われた10年」と称されることが多いが、「バブルの果実」は必ずしも失われず、現在まで受け継がれた可能性が高いのである。最近、わが国でも所得(フロー)の格差が話題にのぼることが多いが、その裏では「バブルの果実」やその移転を通じた資産(ストック)の格差も生じている。今後はこうした所得・資産の多様化に応じた金融サービスが求められることになろう。

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