資本市場クォータリー 2007年秋号
富裕層の実像を探る
宮本 佐知子
要約
  1. 富裕層の実像に関心が集まっている。本稿は(1)富裕層の資産額や資産額分布はどうなっているのか、(2)どこにいるのか、(3)資産構成はどうなっているのか、という富裕層に関するFAQに対し、公表データを基にできるだけ答えようとするものである。
  2. 富裕層の資産額や資産分布は公表統計からは把握できない。そもそもマクロ統計とミクロ統計の差は大きく、資産項目の違いを調整しても世帯当たり金融資産の差は1.7倍もある。この差をミクロ統計で把握しきれていない富裕層の資産と見なすことも可能であろう。
  3. 複数の統計を組み合わせて富裕層の資産分布を推定したところ、金融資産が4,000万円を超える世帯のうち大半は金融資産が8,000万円以下である一方、金融資産が20億円を超える世帯は約3,000ありその金融資産総額は14兆円との結果を得た。また近年は、富裕層の中でも「勝ち組」と残りの富裕層とでは資産格差が拡大しているようである。
  4. 富裕層の地域別所在については、資産富裕層の約3割、所得富裕層の約5割が東京に集中している。地域別所在の推移を見ると、資産富裕層のシェアは東京が3割を占め、バブル崩壊後はシェアが低下したものの足下ではやや持ち直している。またシェア3位の名古屋も上昇している。一方、所得富裕層のシェアは東京への集中が進んでいる。
  5. 富裕層の資産構成については、土地が最も大きな資産である。時系列での推移を見ると、現預金の占める割合が上昇していることや、有価証券に占める自社株の割合が低下し運用を積極化させていることがわかる。ただし富裕層の資産構成はどのタイプの富裕層なのかによって異なっている。そのため、富裕層向けの資産運用アドバイスを考える上では、抱えている資産リスクも同様に異なることに留意する必要があろう。

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