資本市場クォータリー 2007年夏号
家計金融資産の活用を考える上での視点
-移転が進むバブルのメリット-
宮本 佐知子
要約
  1. わが国の家計金融資産は2006年度末で1536兆円と、昨年度から16兆円増加して過去最高額を更新した。今後少子高齢化が進む中では、「フロー」のGDP規模では他国に遅れをとっても、「ストック」の資産規模の優位性は直ちには揺るがない。その中で世界第二位の規模である家計金融資産の行方・活用は重要なテーマである。家計金融資産の活用を考える上では、(1)団塊世代の退職、(2)相続による資産の世代間移転、(3)相続資産内容の変化、に注目する必要があろう。本稿では(1)~(3)の点についてバブル期も振り返り分析する。
  2. 第一に、家計部門が手にする退職金は退職人数増加から、今後2009年頃まで拡大が見込まれる。また、一般的に家計の資産・負債の構成は退職期を挟んで大きく変化する。
  3. 第二に、相続に伴う移転資産は、退職金よりも更に大きな影響を家計資産に及ぼすと見られる。相続資産の規模は退職金の約3倍と推定され、退職金が2010年以降縮小に転じる一方、相続資産は持続的に拡大するからである。また現役世代の勤労所得が伸び悩む中で、家計の資産形成に占める相続資産の割合は一層高まると見られる。
  4. 第三に、相続資産に占める現預金比率・現預金額は過去最高水準となっている。実は、この相続資産の原資はバブル期にまで遡ると見られ、当時の資産売却益が預貯金として温存された結果、相続資産に占める現預金資産の増加という形で顕在化していると考えられる。
  5. 相続を受ける側から見ると、現預金での相続は使途の自由度が高いことを意味する。近年、相続時期が退職後まで後ずれしていることから、相続した現預金は老後に備える運用資金として資本市場へ流入する可能性が高そうだ。一方、資産を遺す側から見ると、現預金比率の高さは、年金・医療などの公的制度への不安を抱えながら、老後の様々なリスクへの対処が難しく、リスクに対処できる金融商品が乏しいことを示唆しているとも考えられる。

宮本 佐知子の他の論文を見る 研究員紹介へ

PDFファイルを表示させるためには、プラグインとしてAdobe Readerが必要です。
お持ちでない方は先にダウンロードしてください。
Adobe Reader ダウンロード