資本市場クォータリー 2007年冬号
教育費を誰がどう負担するのか?
-投資効果が不確実な中で求められる金融サービスの活用-
宮本 佐知子
要約
  1. 如何にして人的資源の価値を高めるのか?そのための教育をどうするか?という命題は、近年、日本のみならず主要先進国で重要な政策課題になっているが、実務的な議論になったときに教育費用の手当が大きな問題となることが多い。ここで教育費負担に関して主要先進国と比較すると、日本の特徴は家計負担が重く、特に大学段階での負担が重い点であることがわかった。

  2. 日本での大学教育の投資収益率を計算すると、過去20年以上にわたり、大学教育への投資は他の投資先と比べて有利であった。このことから家計は重い教育費負担に耐えてきたと解釈できる。しかし、大学全入時代の到来や労働市場の変化に伴い、今後も教育投資が高い収益率を上げられるのか不確かになっている。このような中、各々の個人は、(1)自らの資産を子供に遺産として残すか、(2)子供に生前贈与の一環である「教育」を授けるか、という選択肢について改めて考えることを実は迫られているのである。

  3. 社会全体という視点で考えると、次世代への遺産として、学ぶ機会の提供とそのための手段確保は重要な政策課題である。その意味で、日本の大学教育段階における学生援助制度は、改善の余地が大きいと言えよう。米国における学生援助制度は、援助主体も手法も多様であり、改善へ向けた議論や改革が盛んに行われている点でも、わが国の学生援助制度にとって大いに参考となろう。

  4. 本稿では現地取材も踏まえて、米国の学生援助制度の発展経緯、現在の援助制度、そして最近の議論や課題を紹介し、制度の全体像を捉えやすくすることで、わが国への示唆を考える材料としたい。このときの日本への示唆として、学生ローン回収のための施策の導入、税制優遇の教育資金積立てプランの創設、公的給付奨学金の整備などが考えられよう。

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