資本市場クォータリー 2008年春号
加速する相続に伴う個人金融資産の地域間移転
-2015年までの地域別個人金融資産の展望-
宮本 佐知子
要約
  1. わが国の個人金融資産は大きな転換期を迎えている。少子高齢化の進展に伴い「貯蓄する人」が減少し「取り崩す人」が増えるため、以前のような個人金融資産の増加は見込みづらい。今後の個人金融資産を展望する上では、現役世代の所得や投資だけでなく、相続を通じた資産移転にも注目する必要がある。
  2. 人口動態と相続を通じた個人金融資産への影響を検討するには、長期的な視野が必要である。わが国では過去に大規模な人口移動が見られたが、当時移動した人の多くは今や、親から資産を相続する年齢に達している。親と異なる地域に住む子が資産を相続することは、個人資産の地域分布に大きな影響を及ぼそう。
  3. こうした問題意識から本稿では、予想される個人金融資産の地域間移動について推計することを試みた。まず、過去の人口移動の状況を地域ごとに確認し、次に、人口移動が相続を通じて地域個人金融資産にどう影響するかを推定した。具体的には、金融資産が他県から流入する県と他県へ流出する県とを明らかにし、2015年までに流入・流出する資産額と個人金融資産へ及ぼす影響を地域ごとに推計した。
  4. その結果、二大都市圏では相続を通じて資産が流入すると見込まれ、特に東京圏では金額も影響も大きいことがわかった。ただし東京圏では東京都ではなく神奈川県、埼玉県、千葉県が多く、大阪圏では大阪府ではなく奈良県、滋賀県が多い。二大都市圏以外では、地域経済圏の中心県では資産流出の影響が小さいが、その他地域では資産流出の影響が大きく、地域の個人金融資産の約2割が流出する県もある。
  5. このように、国だけではなく地域でも個人金融資産は転換期を迎えている。個人金融資産をターゲットとする金融機関では、相続による個人金融資産の地域間移転の影響を踏まえた戦略立案が求められている。

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