資本市場クォータリー 2009年秋号
教育費問題の解決策-負担の時間分散を支援する教育資金積立制度-
宮本 佐知子
要約
  1. 教育とは、個々人にとっては能力を高め将来の可能性を広げたり収入を増やすための投資であり、国にとっても国際競争力を維持するために必要不可欠な投資である。しかし直近で家計を取り巻く状況が変化する中、教育費の問題が以前にも増して注目されてきている。
  2. 教育費の問題は、景気悪化による収入減といった問題だけではなく、人口動態的な面とも密接に関連している。年金、医療、介護など様々な局面で家計の負担が増えており、長生きすることで自らの生活資金が枯渇するリスクを考慮したときに、教育に充当できる資金が減少している一方、教育費負担の重さが少子化の要因の筆頭として挙げられるといった悪循環も見られている。
  3. 加えて、教育費の負担感が低所得家計だけでなく平均的家計においても高まっており、平均的家計でも進学をあきらめるリスクが生じている。この背景として、(1)年齢と共に右上がりになる賃金システムの崩壊、(2)相続タイミングの後ずれ等が指摘できるが、この負担感の高まりに対し、教育機関や政府の支援体制は充分とはいえない。しかし政府の財政状況に余裕がなく、教育支出を大幅に増やせない中では、現実的な政策は家計の自助努力を支援する政策であろう。
  4. 家計の教育費問題の本質は多額の支出が大学在学期に集中することにある。この解決策は支出の集中に対して、家計がその費用負担を「時間分散」する手助けをすることであろう。わが国の場合、公的支援制度は大学進学で費用が発生した「後で支払う」手段に偏っているが、前後双方に時間分散した方が負担感を和らげるために有効であるのは直感的にもわかる。この観点からは、教育資金積立制度の創設など「先に貯める」手段の提供も重要だろう。特に、新たな施策となるので政策の費用対効果も大きいと考えられる。

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