欧米においては、金融危機を踏まえた金融制度改革が、具体化の段階に入りつつあるが、その中核に位置づけられるのが、システミック・リスクへの新たな対応である。
もともと金融規制・監督は、システミック・リスクの抑制を大きな目標として設計されてきた。しかし今回の金融危機で、これまでの制度設計には重大な欠陥があることが明確になったのである。特に次の二つの問題が指摘される。
第一に、大規模なシステミック・リスクに至るような危機は、特定の金融機関の経営上の問題のみに起因するというよりも、マクロ経済全体、金融システム全体に、リスクの蓄積につながるような歪みが生じた結果といえるが、この点の対応が不充分だった。資産バブルの発生が歪みの代表例である。しかしこれまで、金融政策は消費者物価の安定性を重視し、一方、金融行政は個別金融機関の健全性(ミクロ・プルーデンス)を重視しがちであった。
第二に、システミック・リスクは銀行発で生じると考えられ、健全性規制もセーフティネットも銀行中心に導入されてきた。しかし、今回の金融危機では、ノンバンク発のシステミック・リスクも生じた。これに対して当局はアドホックな対応を迫られ、とりわけ大手投資銀行を不用意に破綻させたことは、世界経済に甚大な被害をもたらした。
そこで今後不可欠とされているのは、経済全体・システム全体を見渡しリスクをモニターするマクロ・プルーデンス監督体制を構築すること、そして銀行かノンバンクかに関わらずシステム上重要な金融機関(Systemically Important Financial Institutions、SIFIs)に対して新たな規制・監督及び危機対応の仕組みを導入することである。