野村資本市場クォータリー 2013年春号
東アジア諸国における個人金融資産の現状
宮本 佐知子
要約
  1. 東アジア諸国では、経済成長と共に家計部門の所得増加と資産蓄積が進んでおり、同地域における成長の果実を求めて、わが国からの金融機関の進出も近年特に増えている。東アジア地域では高い経済成長が期待される国が多い一方で、国ごとに発展段階の差が大きいことから、本稿では各国における家計金融資産残高や資産構成の現状とその変遷を、中央銀行統計を基に概要を比較・整理した。
  2. 家計金融資産残高を比較すると、最も大きいのは日本であり、次いで中国、韓国、台湾、シンガポール、マレーシアの順である。経済規模に対する金融資産残高を比べると、上位は台湾、日本、シンガポールの順となる。一方、負債残高が金融資産残高や経済規模に対して大きいのは、韓国とマレーシアである。
  3. 家計金融資産構成については、本稿では域内で横比較しやすいように、各国統計に記載されている資産項目を基に再整理した。その結果、家計資金の流入先が預金中心の国と、預金/年金・保険/株式・投資信託に分散されている国とに大別されることがわかった。また、東アジア各国における家計金融資産の残高と構成の推移を確認すると、国別の家計資産の特徴にも近年変化が見られている。そのため、同地域の金融モデルは単一ではないことや、各国独自に深化も続けていることが窺われる。
  4. わが国の金融機関にとって注目される点としては、各国で金融モデルや発展段階が異なるものの、家計資産構成とその変化からは、金融資産の一層の分散化や高齢化への対応が、各国共通の中長期的な課題となっている点であろう。現在は家計が利用できる選択肢が限られている国・地域においても、これらの課題に対応できるようなリスク・リターンの特性に優れた商品を金融機関が提供し、家計の選択肢を広げることは、同地域における家計のニーズに一致し、ビジネスが発展する潜在性があるだろう。また、東アジア地域は国ごとの差異に加えて国内での格差も大きいと見られるだけに、同地域へのアプローチにおいては顧客セグメント化が重要な役割を果たすと考えられる。

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