野村資本市場クォータリー 2014年夏号
拡大続く相続資産市場の注目点
宮本 佐知子
要約
  1. 高齢化社会の進展に伴い、相続資産市場への注目も、ますます高まっている。足下の相続資産市場の規模は年間約50兆円であり、今後も相続資産市場は拡大が続き、2030年までの相続資産額は控えめに見積もっても1,000兆円と推定される。わが国では、大相続時代が到来している。
  2. このような環境の変化に伴い、金融機関にとって相続資産の獲得に取り組むことは、今後一層重要になると考えられる。金融機関が相続資産を獲得するためには、将来の相続人に選ばれる金融機関になることが必要であり、そのためには(近い)将来の相続人というセグメント層に対して、相続発生前から「世代をつなぐ」アプローチをとることがポイントになる。
  3. 将来の相続人との取引関係を築くにあたり、2015年からの相続税制改正は注目される。この改正により相続税の基礎控除額が4割引き下げられるため、被相続人のうち相続税課税対象者の割合は、足下では4.2%だが2015年に増加し、その後も(政策潮流から相続税は強化される方向にあるため)更に増加すると見込まれる。そのため、今後は相続税の対象となる人や、自分も対象になるかもしれないと考える人が、増えて行くことになろう。
  4. また、今回の制度改正では、相続税が強化される一方で贈与税は緩和されており、総じて贈与を通じた資産の世代間移転が促される内容となっている。その結果、将来の相続資産が、現実に相続が発生するのを待たずに、贈与によって前倒しで動く可能性が高くなったと考えられる。金融機関では、この流れを踏まえた提案を将来の相続人に対して行うことで、相続発生前から取引関係を作り強化することが有用と考えられ、NISAの活用もその一案であろう。
  5. 少子高齢化と人口減少が進行する中で、個人資産市場でも構造的な変化が着実に進んでいる。金融機関にとって、既存顧客の資産全体に占める自社シェアを引き上げることは、新規顧客を開拓することと同様に大事な戦略であるが、「世代をつなぐ」アプローチを重視した相続資産獲得への取組みは、その両方で成果が期待できると考えられる。

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