フィンテック(FinTech)という言葉は専門家の間では以前から使われていたようであるが、一般に目につくようになったのは昨年ぐらいからである。現在はフィンテックの黎明期であり、未知なるものに対する不安が大きく膨らんでいる時期である。JPモルガン・チェースのダイモン社長が2015年4月の「株主への手紙」で、警戒すべき競争者として、シリコンバレーの新興企業をあげたように、世界的な大銀行ですら、貸出や決済などのコア銀行業務におけるフィンテック企業の台頭を大きな脅威と感じているのである。
地域金融機関の経営者や職員の間でも、フィンテックが潜在的に持つ破壊的な効果について多くの議論が行われている。地域金融機関にとって従来の仕事のやり方が通用しなくなる可能性が高く、フィンテックの台頭が地域金融機関にとって大きな脅威だと認識するのは正しいし、それに早くから備えておくことの重要性はどんなに強調しても、強調しすぎることはない。
しかし、「心配だ、心配だ」と経営者が不安がっている業界には、将来を担う人材は入ってこなくなる。現在の職員も将来への希望がなくなってしまっては、働くモチベーションが大きく下がってしまう。そこで、本稿では、フィンテックが地域金融機関にとって大きなチャンスであるという立場で議論してみたい。