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野村資本市場クォータリー 2019年春号
時流 情報銀行(情報信託機能)
−検討の経緯と今後の課題−
東京大学大学院法学政治学研究科教授 宍戸 常寿

近時注目されている、「情報銀行」あるいは「情報信託機能」は、本人の関与の下でパーソナルデータを流通・活用するためのしくみである。パーソナルデータの保護と利活用をトレードオフの関係として捉えるのではなく、逆に本人によるコントローラビリティを高めることこそが活用・流通を進めることにつながるという、“Win-Win”の視点が、その基本にある。本稿では、検討の経緯に触れながら、情報銀行(情報信託機能)の特徴と今後の課題について解説することにしたい。

オーストラリアのスーパーアニュエーションが金融市場ならびに経済成長に果たした役割 オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院 准教授 沖本 竜義
  1. オーストラリアは、投資信託大国である。2018年9月の時点で、オーストラリアの投資信託残高は2.9兆豪ドルであるのに対して、同時点での日本の残高は2.6兆豪ドルとなっている 。2017年のオーストラリアのGDPは1.8兆豪ドル程度、日本のGDPは6兆豪ドルを超えるレベルであることを考えると、日本と比較して、オーストラリアの投資信託残高が極めて高いことが理解できるであろう。オーストラリアが投資信託大国となった大きな理由は、スーパーアニュエーションという強制加入で事前積立方式の私的年金の存在である。
  2. スーパーアニュエーションから多額の資金が国内金融市場に流れ、オーストラリアの株式や債券だけではなくインフラ投資や未上場の新興企業などにも安定した資金を供給し、オーストラリア経済の成長や金融市場の安定化にも大きく寄与してきた可能性が大きい。このような観点から、本稿では、オーストラリアのスーパーアニュエーションが経済や金融市場の安定化に与えた影響及び、日本に対するインプリケーションを議論したい。
急成長する中国のグリーンボンド発行市場の政策・法的枠組み 関根 栄一
  1. 中国のグリーンボンド市場の急成長が、国際的な市場参加者から注目を集めている。中国で、グリーンボンドの発行に関する政策・法的枠組みが整備され始めたのは2015年末であり、短期間のうちに、中国政府がトップダウンで取り組んできた成果と言える。
  2. 特に、2016年8月に中国人民銀行等の計7部門が公布した「グリーン金融体系の構築に関する指導意見」では、グリーンボンドについて、複数の官庁によって管理されてきた中国の債券市場制度体系を踏まえつつも、発行手引きや、資金使途、第三者認証等に関する共通の指針が示され、順次、ルール整備がなされてきている。
  3. グリーンボンドの個別銘柄に関する法的枠組みを見ると、発行時の審査の迅速化や手続きの簡素化によって、当局は、同じ債券でも優先的にグリーンボンドの発行を促そうとしている。自主規制機関として、中国金融学会のグリーン金融専門委員会が、対象プロジェクトの基準作りに関わっていることも中国の特徴である。
  4. 一方、中国のグリーンボンド市場では、銀行等による金融債が絶対多数を占め、社債の割合が小さく、また投資家への認知度が低いなどといった課題が、中国国内の研究者からも指摘されている。中国が今後、成熟したグリーンボンド市場を構築するためにどのような道をたどっていくかは、ゼロから同市場を立ち上げる国の当局や市場参加者の関心を集め続けるであろう。
中国のグリーンボンド市場 江夏 あかね関根 栄一宋 良也
  1. グリーンボンドは、2000年代後半に誕生し、欧米での発行が中心的だったが、2016年頃から中国の発行体等による発行が堅調に伸びており、2018年の発行額は米国に次いで2位となっている。中国のグリーンボンド市場が活況となっている背景としては、中国政府がグリーンファイナンスの推進を重要施策として掲げるとともに、複数の管理・監督主体が、発行体や投資家に対してグリーンボンドの発行や投資を促進する複数の施策を講じていることが挙げられる。
  2. 中国におけるグリーンボンドの発行状況では、(1)発行体セクター別では商業銀行等が最も多く、事業会社が続く構造、(2)発行市場は、銀行間債券市場が中心、(3)資金使途は、クリーン・エネルギー、汚染防止・管理等が中心、(4)多くの銘柄が外部評価を取得、といった特徴が挙げられる。
  3. 中国におけるグリーンボンドの資金使途について、中国国内基準には、国際的に浸透している基準に適合しない資金使途等が含まれている。適合しない要因としては、グリーンの定義や調達資金のグリーンプロジェクトへの充当割合の違い等が中心となっている。気候債券イニシアチブ(CBI)によると、中国の発行体等によるグリーンボンドの発行額(2016〜2018年)のうち、国際基準に適合していたものは全体の6〜7割程度であった。
  4. 中国のグリーンボンドをめぐっては、国内基準が国際基準と異なる資金使途となっている問題が注目されるが、国際基準を満たす発行額のみでも世界的に見て十分に存在感のある規模となっている。その意味で、今後も中国におけるグリーンボンドの発行・投資状況やグリーンボンド市場の成長を支える仕組み等が、日本を含めた世界各国から注目される状況が続くと想定される。
キャッシュレス決済の本命は? 淵田 康之
  1. 昨今、わが国ではQRコード決済が注目を集めているが、多くの国ではコンタクトレス決済が主流となっている。これまでコンタクトレス決済の普及が著しく遅れていた米国でも、ようやくその導入が本格化しつつある。
  2. ニューヨークの地下鉄やバスでも、本年5月、コンタクトレス決済が導入される。専用カードだけではなく、通常のクレジットカードやデビットカード、Apple Payなどでも乗車可能となる。こうしたオープン・ループ・システムのコンタクトレス決済による交通料金徴収は、ロンドンなど他の都市でも導入されている。
  3. 一方、香港の地下鉄も、オープン・ループ・システムの採用を決めたが、コンタクトレス決済に加えて、QRコード決済も利用可能とする。コンタクトレス決済かQRコード決済か、またオープン・ループかクローズド・ループか、それぞれメリット・デメリットがある。
  4. 米国でも、スターバックスやウォルマートは、QRコードを用い、自社に閉じた独自の決済サービスを提供している。モバイル個人間送金、QRコード決済、コンタクトレス決済は、それぞれのコスト・ベネフィットや、各国固有の諸事情を踏まえ、一定のすみ分けがされていくと考えられる。
  5. わが国では既にコンタクトレス決済が普及している店舗が、QRコード決済を新たに導入し、その主たる利用先となるなど、本来のすみ分けが実現していない。またコンタクトレス決済を含め、決済手段間の互換性に乏しく、銀行界による統一的なモバイル個人間送金も実現していない。こうしたなか、交通系決済サービスについては、互換性のある専用コンタクトレス・カードが普及しており、今後、QRコード決済の導入や個人間送金を含むモバイル・サービスの利便性向上、及び非交通分野での利用の一層の拡大などが実現していけば、わが国のキャッシュレス決済において、存在感を高めていく可能性がある。
金融機関にとって注目される家計資金の新たな動き 宮本 佐知子
  1. 近年の金融市場環境の変化や情報通信技術(ICT)の革新は、金融機関が直面している経営戦略上の大きな課題であるが、これらは家計資金においても金融機関が見逃せない動きを生じさせている。
  2. まず、近年の家計預金を取り巻く金融市場環境を見ると、リーマン・ブラザースの経営破綻とその後の世界金融危機を境に預金金利は急速に低下し、日本銀行によるマイナス金利政策導入後は一段と低下した。この間、定期性預金と流動性預金の金利差は大きく縮小しており、それに伴い家計資金は定期性預金から純流出し、流動性預金や現金等へ純流入するようになっている。
  3. 次に、ICTの革新やスマートフォンの普及、金融規制緩和を背景とする新たな金融サービスの動きを見ると、決済分野では近年、クレジットカードや電子マネー 、デビットカードといったキャッシュレス決済の利用が増えている。家計はこれらを目的や金額によって使い分けているが、年齢階層別にも使い方が異なっている。さらに近年は、異業種による決済・金融サービスへの参入も増えており、家計の選択肢は広がっている。
  4. 新たな金融サービスの動きは、資産運用分野でも増えている。特に、家計が投資を実践しやすくすることを目指した新規参入企業のサービスは、操作性に優れカスタマーエクスペリエンスを重視したものも多いことが魅力的とされる。また、既存金融機関でも、家計が投資を実践しやすくなるような取り組みや、グループ内の他金融サービスも使いやすくする取り組みが進められている。
  5. これらにより、総じて家計資金は定期性預金から他資産へ動きやすくなり、そのスピードも速まっていると考えられる。金融機関では、このような家計資金の変化を踏まえて、顧客ごとにきめ細やかな対応をコストに見合う形で実践することが求められよう。同時に、特に預金取扱機関においては、これまで定期性預金が持っていた家計資金の粘着機能を補完するための施策を工夫し、顧客のロイヤルティを高めることが一層大切な課題になっている。
顧客の最善利益を意識してビジネス変革を図る米大手証券会社
−人事・報酬とデジタル戦略を中心に−
岡田 功太下山 貴史
  1. 米国の証券業界は、近年、顧客の最善利益を意識する形での、個人向けビジネスにおける変革を迫られている。その契機となったのは、米労働省が2016年4月に最終化したフィデューシャリー・デューティー規則(DOLFD規則)である。同規則自体は行政手続法違反であるとして提訴され、2018年6月に無効化されたものの、その後、証券取引委員会が米労働省に代わって、顧客の最善利益の追求義務を課す規制の策定を進めることとなった。そのため、米大手証券会社は、無効になってもなお、DOLFD規則の影響下でビジネス改革を進めている。
  2. 第一に、営業担当者の報酬体系の変更である。メリルリンチは、顧客の預かり資産を増加させ、かつ、大口の新規顧客を獲得した営業担当者に対して追加的な報酬を支払う。他方で、それができなかった営業担当者については、報酬を減額することで、顧客の最善利益に適う形での営業担当者の生産性の向上を目指している。
  3. 第二に、営業担当者の雇用方針の変化である。DOLFD規則が最終化されて以降、所属先の意向ではなく、自身の考え方に基づいて顧客の最善利益を追求すべく、独立系ファイナンシャル・アドバイザーに転身する者が増加した。そのため、米大手証券会社は、営業担当者との契約を変更するなどして、顧客の流出を抑止しようとしている。
  4. 第三に、デジタル戦略である。モルガン・スタンレーは、小口投資家を主眼とするデジタル・プラットフォームを高度化し、営業担当者がパーソナライズしたファイナンシャル・プランニングを提供できるようにした。これを活用する営業担当者には追加的な報酬を支払う一方で、それができない営業担当者の報酬は減額する。
  5. 米大手証券会社の個人向け営業部門の改革は、企画、人事、IT等の各機能が横断的に取り組んで初めて成功するものとなっている。その際、DOLFD規則の理念を把握した上で適切な報酬体系を設定することが、足下では重要な鍵を握っていると見受けられる。今後、いかなる変貌を遂げていくのか、引き続き注目すべきであると言えよう。
英国の投資アドバイス市場改善に向けた政策と民間事業者の対応
−すべての個人に適切かつ十分な投資サービスが提供される方法の模索−
神山 哲也磯部 昌吾
  1. 英国では、金融事業者が顧客の最善の利益を追求することを確保するべく、10年以上に渡り議論と政策対応が行われてきた。まず、金融サービス機構(FSA、当時)は、従前の投資アドバイスが必ずしも顧客の最善の利益に沿う形で提供されていないとして、個人向け金融商品販売制度改革(RDR)を2012年末から段階的に実施した。RDRの柱は、(1)アドバイザー手数料(運用会社から販売会社へのキックバックの禁止)、(2)アドバイス・サービスの説明・開示(独立・限定アドバイスの明確化)、(3)プロフェッショナル基準の高度化(継続研修と資格要件の引上げ)だった。
  2. 更に、投資アドバイスが全ての消費者にとって必ずしも十分に機能していないとの認識から、低コストでアクセスしやすい投資アドバイス市場の発展・促進を目的として、2015年8月に財務省と金融行為規制機構(FCA)が共同で金融アドバイス市場レビュー(FAMR)を開始した。FAMRでは、(1)アドバイスのコストの低下、(2)アドバイスへのアクセスの容易化、(3)フィナンシャル・アドバイザー(FA)の責務と消費者救済の明確化に関して提言がなされた。
  3. このような制度面の見直しを受け、金融事業者の側においても、FAが顧客本意の投資アドバイスに注力できるよう、様々な取り組みが進められている。例えば、プラットフォーム業者が適切なプロダクトの選定・絞り込み機能をFAに提供したり、大手ウェルス・マネジメント会社がコンプライアンスやITなどのミドル・バック分野の対応についてFAを支援したりしている。
  4. 英国では、投資アドバイス市場における需要と供給の両サイドを見て、市場原理だけでは達成できない部分に政策的に対応していくという考え方が取られている。また、英国と日本では前提が異なる部分はあるものの、FAのプロダクト選定やミドル・バックの負担を軽減して顧客サービスに集中できる環境を整備しようとする金融事業者の取り組みも興味深い。英国の投資アドバイス市場をめぐる政策アプローチと、業界の取り組みのいずれについても、引き続き注視する必要があると言えよう。
フィデリティの信託報酬ゼロ戦略と米国資産運用業界のメガトレンド 岡田 功太下山 貴史
  1. フィデリティ・インベストメンツは2018年に、「フィデリティ・ゼロコスト・シリーズ」と呼称する信託報酬が無料のインデックス・ファンドを4本設定した。同シリーズの運用資産総額(AUM)は、設定から約半年間で合計約40億ドル(2019年2月末)に達し、高い注目を集めている。
  2. 近年、米国資産運用業界は、(1)インデックス・ファンド及びETFの台頭、(2)経費率の低いファンドに資金が流入する傾向、(3)独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)の台頭等、アクティブ運用を主体とする資産運用会社の経営を根底から揺るがすメガトレンドが観察される。
  3. そのような中、フィデリティのアビゲイル・ジョンソン会長兼CEOは、AUMの増大を目指す資産運用業から、同社の資産運用機能をIFA経由で顧客に提供することによって、管理資産総額(AUA)の拡大を目指す方向へと経営の舵を切った。その中核を担うのが、フィデリティ・クリアリング&カストディ・ソリューションズ(FCCS)である。FCCSは、IFA等に対してフィデリティのサービス等を提供するプラットフォームである。
  4. IFAがFCCSのプラットフォーム経由でマネージド・アカウント(ファンドラップやSMA)を提供する場合、個人投資家は(1)アドバイザリー・フィー(フィデリティ・インベストメンツが取得)、(2)マネージド・アカウントに組み入れられるファンドの信託報酬(ファンドの運用会社が取得)、(3)残高フィー(IFAが取得)の3つを合計した手数料を負担する。今般のフィデリティ・ゼロコスト・シリーズの狙いは(2)の削減である。
  5. 信託報酬が無料であることは、個人投資家にとって魅力的であることに加え、顧客からの預かり資産残高を増大させることで、(3)の残高フィーの拡大を志向するIFAにとっても有用である。そのため、より多くのIFAがフィデリティ・ゼロコスト・シリーズを活用する可能性があり、結果的にFCCSのAUAが増加し、(1)が増大する可能性もある。
  6. フィデリティ・インベストメンツの、「AUMの増大」から「AUAの増大」への経営戦略転換を受けて、JPモルガン等の他の金融機関も、現在、信託報酬を無料とした商品の組成を検討している。今後もダイナミックに変貌を遂げる米国資産運用業界の動向は注目に値する。
気候変動リスクを巡るアセットマネージャーの動向 板津 直孝
  1. 米国大手運用会社のブラックロックは、2019年2月に公表したレポートで、持続可能なポートフォリオの構築が投資収益を必ずしも損なわないことなどを示すと共に、持続可能な投資はもはやニッチではなく主流になりつつあると指摘した。同社は、ESG投資の中でも気候変動をポートフォリオの重要なリスク要因に位置づけているが、同様な動向は、モルガン・スタンレーとブルームバーグが2018年11月に公表した米国のアセットマネージャーの調査結果からも窺うことができる。
  2. こうした動きの背景にある状況変化として、化石燃料除外インデックスの実績のような運用に係る動向に加え、世界的な気候変動訴訟の増加、中央銀行及び金融監督当局による気候変動リスクの管理強化などが指摘できる。
  3. インベストメントチェーンの最上位に位置するアセットマネージャーは、気候変動をポートフォリオのリスク要因として位置づけ、気候関連の情報開示を投資先企業に対して求めることにより、持続可能なポートフォリオを構築することができる。こうしたアセットマネージャーの特性を踏まえ、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)は、アセットマネージャー向けに、補助ガイダンスや情報開示の現状における課題を示している。
  4. アセットマネージャーの顧客であるアセットオーナーは、気候関連のリスク及び機会がどのように管理されているかを理解するに当たって、アセットマネージャーからの報告に依存しているため、アセットマネージャーの気候関連情報開示は、アセットオーナーにとっても極めて重要となる。また、当該情報開示の強化は、ミクロプルーデンス分野とマクロプルーデンス分野における金融監督上の対応に資することにもなる。
  5. アセットマネージャーには、ポートフォリオの気候変動リスクに対するレジリエンス(耐性)を示すことなどを通じて、アセットオーナー及び、中央銀行及び金融監督当局のニーズを満たすことが、一層求められていくことになろう。
中国における民営化なき国有企業改革の行方
−次善策としての公平かつ競争的市場環境の構築−
関 志雄
  1. 計画経済から市場経済への移行過程にある中国は、国有企業に民間資本を取り入れる「混合所有制改革」を進めている。その最大の狙いは、公平かつ競争的市場環境の確立とコーポレート・ガバナンスの強化を通じて、国有企業の効率を改善することである。しかし、混合所有制改革がその最も有効な手段であるかどうかは疑問である。まず、混合所有制改革の目的が一部の業種における国有企業の独占状態を打破することであれば、最善の方法は、異なる所有制の企業、特に民営企業が国有企業と同じ条件下で、公平に競争できるようにすることである。また、混合所有制改革の目的が株主構造を変えることを通じてコーポレート・ガバナンスを含む経営体制に変化をもたらすことであれば、国は、民営化を通じて、所有者という立場で国有企業を支配することを改めなければならない。
  2. 民営化の推進が政治的に無理であるならば、次善の策として改革の重点を公平かつ競争的市場環境の構築に置くべきである。その際、OECDが提唱する「競争中立性原則」が一つの参考になる。それに従えば、国有、民営、外資といった異なる所有制の企業に対し、政府は同じ扱いをし、中立性を保たなければならない。中国政府も、「競争中立性原則」を重視し、それに向けて、行政機関などの政策策定機関は、市場参入許可、産業発展、企業誘致・資金導入、入札募集・入札、政府調達、経営行為規範、資質基準などの市場主体の経済活動に関する規則、規範性文書及びその他の政策措置を制定する際に、公平競争審査を行い、市場競争に対する影響を評価し、市場競争の排除や制限を防止しなければならないという方針を発表している。
  3. 「競争中立性原則」を貫くためには、政府による企業と市場への介入をできるだけ抑えなければならない。具体的に、(1)資源配分における政府の権限を大幅に縮小させる、(2)行政と企業の分離という改革の方向性を堅持する、(3)独占産業の改革を加速させることが求められる。もっとも、政府が国有企業を所有し続ける限り、その政策の実現は困難であろう。望まれる民営化の推進という政策転換に向けて、従来のイデオロギーによる制約を除去しなければならない。
中国政府による株式市場対策の発動
−短期的対応と長期的改革の視点から−
関根 栄一
  1. 2018年10月19日、国務院・劉鶴副総理(金融担当)は、前日の18日の上海総合指数の終値が2,500ポイントを割り込み、終値として2014年11月以来の安値を記録したことを受け、市場安定化策等の5分野から成る株式市場対策を発表した。中国政府が株価維持政策(PKO)を発動するのは、2015年夏の株式市場危機期以来である。
  2. 株式市場対策の背景には、2018年に入り、政府の政策的誘導によるオフバランス融資の削減が進む中で、民間の中小企業が株式担保融資を通じて資金調達を行ってきたことがある。株価下落が続くことで、借り手が流動性の問題に直面し、短期金融市場に混乱が発生することを回避する必要があった。
  3. 株式市場対策は、短期的には、(1)保険会社や証券会社が組成するファンド等を通じた株式担保融資の継続または担保株式の買取りを支援、(2)中国証券監督管理委員会によるM&A審査の迅速化、(3)中国人民銀行による再保証を通じた民間企業の社債発行支援の三つの柱から構成されている。
  4. また、株式市場対策には、(1)銀行理財子会社による資本市場での投資の容認といった機関投資家の市場参入促進、(2)会社法の改正による自社株買いの促進、といった制度改正を伴う中長期的な市場育成措置も含まれている。
  5. 今回、株式市場対策が必要となった背景には、民間の中小企業の資金調達難の問題がある。当面は、政府が銀行に貸出目標を設定して対応する方針が出ているが、中長期的には、金融仲介のゆがみの解消に向け、資本市場を通じたリスクマネーの供給を図り、直接金融の割合を高めていくことが重要である。
モバイルアプリを使った株式取引の普及と中国証券業界の変化 宋 良也
  1. 中国における株式取引は、店頭での注文、電話委託を経て、インターネットの普及に伴い、オンライン化してきた。第3世代移動通信システム(3G)が導入された2009年以降は、スマートフォンが普及したことにより、モバイルでの株式取引が本格的に可能となった。2018年末時点で、約1.4億人にのぼる中国個人投資家のほとんどは、株式取引をオンラインで行っている。投資家がスマートフォンを操作して発注を行う際、インターフェースを提供しているのは、多くの場合、証券会社ではなく株式取引アプリを開発している第三者企業である。
  2. 中国において最大のシェアを有する株式取引アプリは、131社の証券会社のうち90社近くと提携している「同花順」である。同社のアプリでは、複数証券会社での口座開設・株式取引が行えるという利便性があり、投資家の人気を集めた。また、金融情報、公募ファンド代理販売などのサービスを無料で投資家に提供すると同時に、自社が開発するアルゴリズムを用いた銘柄選択機能搭載のアプリなどの有料サービスで差別化を図っている。
  3. 一方、中国の証券会社は、手数料率の引下げ競争激化という背景の下で、従来のブローカレッジ業務が限界を迎えつつある。大手証券会社は、自社で開発した株式取引アプリを通じて顧客データの囲い込みを行い、富裕顧客向けの投資助言や資産運用など対面サービスの高度化を目指している。アプリ開発企業との関係は、従来の協力関係から競合関係へと変化している。
  4. 大手証券会社は既に、当局の規制強化を口実に、同花順等の第三者企業との協力関係を断ち始めている。一方、同花順も公募ファンドなど金融商品の代理販売や、AI(人工知能)を用いたロボ・アドバイザー等、付加価値の高い資産運用サービスを投資家に提供することに注力している。第三者の株式取引アプリ会社と大手証券会社の間で顧客インターフェースを巡る競争が、どのような形で投資家にとってのサービス向上に繋がっていくのか、注目される。
外資系プライベートバンクの存在感が高まりつつあるタイのウェルス・マネジメント業界 北野 陽平武井 悠輔
  1. 近年、タイのウェルス・マネジメント業界では、外資系プライベートバンクの存在感が高まりつつある。背景には、堅調な経済成長や株価の上昇等を要因として、富裕層の人口及び資産が着実に拡大していることがある。大手コンサルティング会社キャップジェミニによると、100万米ドル以上の投資可能な資産を保有する富裕層の人口はタイ国内で2008年末の4.2万人から2017年末には12.3万人に、富裕層の資産は同期間に1,900億米ドルから6,300億米ドルに増加した。
  2. また、外資系プライベートバンクによるタイへの参入を促す制度的要因として、(1)相続税及び贈与税の導入に伴う資産保全のための助言ニーズの高まり、(2)外国為替規制の緩和による外国証券投資の自由度の向上、(3)リスクの高いまたは複雑な金融商品への投資に係る規制の緩和、がある。タイの富裕層の資産運用ニーズが多様化・高度化する中、豊富なノウハウを持ち、オフショア市場の機能を活用できる外資系プライベートバンクの事業機会が拡大している。
  3. 2014年以降にタイのウェルス・マネジメント市場に参入した主な外資系プライベートバンクとして、スイスを本拠とするロンバー・オディエ、クレディ・スイス、ジュリアス・ベアの3行が挙げられる。参入の契機や形態は様々であり、ロンバー・オディエとジュリアス・ベアのようにカシコン銀行やサイアム商業銀行といった地場大手金融機関と提携したケースもあれば、クレディ・スイスのように単独で参入した事例もある。
  4. 今後、タイのウェルス・マネジメント業界の発展を後押しする要因として、事業・資産承継等に関する私益信託法(Private Trust Act)の導入が挙げられる。外資系プライベートバンクによる参入は、地場金融機関の富裕層向け金融サービスの質向上に貢献していると言え、国内資本市場の発展にもつながると考えられる。タイのウェルス・マネジメント業界の歴史はまだ浅いが、様々な取り組みが始まっており、今後の展開が注目されよう。
時流 情報銀行(情報信託機能)
−検討の経緯と今後の課題−
東京大学大学院法学政治学研究科教授 宍戸 常寿

近時注目されている、「情報銀行」あるいは「情報信託機能」は、本人の関与の下でパーソナルデータを流通・活用するためのしくみである。パーソナルデータの保護と利活用をトレードオフの関係として捉えるのではなく、逆に本人によるコントローラビリティを高めることこそが活用・流通を進めることにつながるという、“Win-Win”の視点が、その基本にある。本稿では、検討の経緯に触れながら、情報銀行(情報信託機能)の特徴と今後の課題について解説することにしたい。

オーストラリアのスーパーアニュエーションが金融市場ならびに経済成長に果たした役割 オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院 准教授 沖本 竜義
  1. オーストラリアは、投資信託大国である。2018年9月の時点で、オーストラリアの投資信託残高は2.9兆豪ドルであるのに対して、同時点での日本の残高は2.6兆豪ドルとなっている 。2017年のオーストラリアのGDPは1.8兆豪ドル程度、日本のGDPは6兆豪ドルを超えるレベルであることを考えると、日本と比較して、オーストラリアの投資信託残高が極めて高いことが理解できるであろう。オーストラリアが投資信託大国となった大きな理由は、スーパーアニュエーションという強制加入で事前積立方式の私的年金の存在である。
  2. スーパーアニュエーションから多額の資金が国内金融市場に流れ、オーストラリアの株式や債券だけではなくインフラ投資や未上場の新興企業などにも安定した資金を供給し、オーストラリア経済の成長や金融市場の安定化にも大きく寄与してきた可能性が大きい。このような観点から、本稿では、オーストラリアのスーパーアニュエーションが経済や金融市場の安定化に与えた影響及び、日本に対するインプリケーションを議論したい。
急成長する中国のグリーンボンド発行市場の政策・法的枠組み 関根 栄一
  1. 中国のグリーンボンド市場の急成長が、国際的な市場参加者から注目を集めている。中国で、グリーンボンドの発行に関する政策・法的枠組みが整備され始めたのは2015年末であり、短期間のうちに、中国政府がトップダウンで取り組んできた成果と言える。
  2. 特に、2016年8月に中国人民銀行等の計7部門が公布した「グリーン金融体系の構築に関する指導意見」では、グリーンボンドについて、複数の官庁によって管理されてきた中国の債券市場制度体系を踏まえつつも、発行手引きや、資金使途、第三者認証等に関する共通の指針が示され、順次、ルール整備がなされてきている。
  3. グリーンボンドの個別銘柄に関する法的枠組みを見ると、発行時の審査の迅速化や手続きの簡素化によって、当局は、同じ債券でも優先的にグリーンボンドの発行を促そうとしている。自主規制機関として、中国金融学会のグリーン金融専門委員会が、対象プロジェクトの基準作りに関わっていることも中国の特徴である。
  4. 一方、中国のグリーンボンド市場では、銀行等による金融債が絶対多数を占め、社債の割合が小さく、また投資家への認知度が低いなどといった課題が、中国国内の研究者からも指摘されている。中国が今後、成熟したグリーンボンド市場を構築するためにどのような道をたどっていくかは、ゼロから同市場を立ち上げる国の当局や市場参加者の関心を集め続けるであろう。
中国のグリーンボンド市場 江夏 あかね関根 栄一宋 良也
  1. グリーンボンドは、2000年代後半に誕生し、欧米での発行が中心的だったが、2016年頃から中国の発行体等による発行が堅調に伸びており、2018年の発行額は米国に次いで2位となっている。中国のグリーンボンド市場が活況となっている背景としては、中国政府がグリーンファイナンスの推進を重要施策として掲げるとともに、複数の管理・監督主体が、発行体や投資家に対してグリーンボンドの発行や投資を促進する複数の施策を講じていることが挙げられる。
  2. 中国におけるグリーンボンドの発行状況では、(1)発行体セクター別では商業銀行等が最も多く、事業会社が続く構造、(2)発行市場は、銀行間債券市場が中心、(3)資金使途は、クリーン・エネルギー、汚染防止・管理等が中心、(4)多くの銘柄が外部評価を取得、といった特徴が挙げられる。
  3. 中国におけるグリーンボンドの資金使途について、中国国内基準には、国際的に浸透している基準に適合しない資金使途等が含まれている。適合しない要因としては、グリーンの定義や調達資金のグリーンプロジェクトへの充当割合の違い等が中心となっている。気候債券イニシアチブ(CBI)によると、中国の発行体等によるグリーンボンドの発行額(2016〜2018年)のうち、国際基準に適合していたものは全体の6〜7割程度であった。
  4. 中国のグリーンボンドをめぐっては、国内基準が国際基準と異なる資金使途となっている問題が注目されるが、国際基準を満たす発行額のみでも世界的に見て十分に存在感のある規模となっている。その意味で、今後も中国におけるグリーンボンドの発行・投資状況やグリーンボンド市場の成長を支える仕組み等が、日本を含めた世界各国から注目される状況が続くと想定される。
キャッシュレス決済の本命は? 淵田 康之
  1. 昨今、わが国ではQRコード決済が注目を集めているが、多くの国ではコンタクトレス決済が主流となっている。これまでコンタクトレス決済の普及が著しく遅れていた米国でも、ようやくその導入が本格化しつつある。
  2. ニューヨークの地下鉄やバスでも、本年5月、コンタクトレス決済が導入される。専用カードだけではなく、通常のクレジットカードやデビットカード、Apple Payなどでも乗車可能となる。こうしたオープン・ループ・システムのコンタクトレス決済による交通料金徴収は、ロンドンなど他の都市でも導入されている。
  3. 一方、香港の地下鉄も、オープン・ループ・システムの採用を決めたが、コンタクトレス決済に加えて、QRコード決済も利用可能とする。コンタクトレス決済かQRコード決済か、またオープン・ループかクローズド・ループか、それぞれメリット・デメリットがある。
  4. 米国でも、スターバックスやウォルマートは、QRコードを用い、自社に閉じた独自の決済サービスを提供している。モバイル個人間送金、QRコード決済、コンタクトレス決済は、それぞれのコスト・ベネフィットや、各国固有の諸事情を踏まえ、一定のすみ分けがされていくと考えられる。
  5. わが国では既にコンタクトレス決済が普及している店舗が、QRコード決済を新たに導入し、その主たる利用先となるなど、本来のすみ分けが実現していない。またコンタクトレス決済を含め、決済手段間の互換性に乏しく、銀行界による統一的なモバイル個人間送金も実現していない。こうしたなか、交通系決済サービスについては、互換性のある専用コンタクトレス・カードが普及しており、今後、QRコード決済の導入や個人間送金を含むモバイル・サービスの利便性向上、及び非交通分野での利用の一層の拡大などが実現していけば、わが国のキャッシュレス決済において、存在感を高めていく可能性がある。
金融機関にとって注目される家計資金の新たな動き 宮本 佐知子
  1. 近年の金融市場環境の変化や情報通信技術(ICT)の革新は、金融機関が直面している経営戦略上の大きな課題であるが、これらは家計資金においても金融機関が見逃せない動きを生じさせている。
  2. まず、近年の家計預金を取り巻く金融市場環境を見ると、リーマン・ブラザースの経営破綻とその後の世界金融危機を境に預金金利は急速に低下し、日本銀行によるマイナス金利政策導入後は一段と低下した。この間、定期性預金と流動性預金の金利差は大きく縮小しており、それに伴い家計資金は定期性預金から純流出し、流動性預金や現金等へ純流入するようになっている。
  3. 次に、ICTの革新やスマートフォンの普及、金融規制緩和を背景とする新たな金融サービスの動きを見ると、決済分野では近年、クレジットカードや電子マネー 、デビットカードといったキャッシュレス決済の利用が増えている。家計はこれらを目的や金額によって使い分けているが、年齢階層別にも使い方が異なっている。さらに近年は、異業種による決済・金融サービスへの参入も増えており、家計の選択肢は広がっている。
  4. 新たな金融サービスの動きは、資産運用分野でも増えている。特に、家計が投資を実践しやすくすることを目指した新規参入企業のサービスは、操作性に優れカスタマーエクスペリエンスを重視したものも多いことが魅力的とされる。また、既存金融機関でも、家計が投資を実践しやすくなるような取り組みや、グループ内の他金融サービスも使いやすくする取り組みが進められている。
  5. これらにより、総じて家計資金は定期性預金から他資産へ動きやすくなり、そのスピードも速まっていると考えられる。金融機関では、このような家計資金の変化を踏まえて、顧客ごとにきめ細やかな対応をコストに見合う形で実践することが求められよう。同時に、特に預金取扱機関においては、これまで定期性預金が持っていた家計資金の粘着機能を補完するための施策を工夫し、顧客のロイヤルティを高めることが一層大切な課題になっている。
顧客の最善利益を意識してビジネス変革を図る米大手証券会社
−人事・報酬とデジタル戦略を中心に−
岡田 功太下山 貴史
  1. 米国の証券業界は、近年、顧客の最善利益を意識する形での、個人向けビジネスにおける変革を迫られている。その契機となったのは、米労働省が2016年4月に最終化したフィデューシャリー・デューティー規則(DOLFD規則)である。同規則自体は行政手続法違反であるとして提訴され、2018年6月に無効化されたものの、その後、証券取引委員会が米労働省に代わって、顧客の最善利益の追求義務を課す規制の策定を進めることとなった。そのため、米大手証券会社は、無効になってもなお、DOLFD規則の影響下でビジネス改革を進めている。
  2. 第一に、営業担当者の報酬体系の変更である。メリルリンチは、顧客の預かり資産を増加させ、かつ、大口の新規顧客を獲得した営業担当者に対して追加的な報酬を支払う。他方で、それができなかった営業担当者については、報酬を減額することで、顧客の最善利益に適う形での営業担当者の生産性の向上を目指している。
  3. 第二に、営業担当者の雇用方針の変化である。DOLFD規則が最終化されて以降、所属先の意向ではなく、自身の考え方に基づいて顧客の最善利益を追求すべく、独立系ファイナンシャル・アドバイザーに転身する者が増加した。そのため、米大手証券会社は、営業担当者との契約を変更するなどして、顧客の流出を抑止しようとしている。
  4. 第三に、デジタル戦略である。モルガン・スタンレーは、小口投資家を主眼とするデジタル・プラットフォームを高度化し、営業担当者がパーソナライズしたファイナンシャル・プランニングを提供できるようにした。これを活用する営業担当者には追加的な報酬を支払う一方で、それができない営業担当者の報酬は減額する。
  5. 米大手証券会社の個人向け営業部門の改革は、企画、人事、IT等の各機能が横断的に取り組んで初めて成功するものとなっている。その際、DOLFD規則の理念を把握した上で適切な報酬体系を設定することが、足下では重要な鍵を握っていると見受けられる。今後、いかなる変貌を遂げていくのか、引き続き注目すべきであると言えよう。
英国の投資アドバイス市場改善に向けた政策と民間事業者の対応
−すべての個人に適切かつ十分な投資サービスが提供される方法の模索−
神山 哲也磯部 昌吾
  1. 英国では、金融事業者が顧客の最善の利益を追求することを確保するべく、10年以上に渡り議論と政策対応が行われてきた。まず、金融サービス機構(FSA、当時)は、従前の投資アドバイスが必ずしも顧客の最善の利益に沿う形で提供されていないとして、個人向け金融商品販売制度改革(RDR)を2012年末から段階的に実施した。RDRの柱は、(1)アドバイザー手数料(運用会社から販売会社へのキックバックの禁止)、(2)アドバイス・サービスの説明・開示(独立・限定アドバイスの明確化)、(3)プロフェッショナル基準の高度化(継続研修と資格要件の引上げ)だった。
  2. 更に、投資アドバイスが全ての消費者にとって必ずしも十分に機能していないとの認識から、低コストでアクセスしやすい投資アドバイス市場の発展・促進を目的として、2015年8月に財務省と金融行為規制機構(FCA)が共同で金融アドバイス市場レビュー(FAMR)を開始した。FAMRでは、(1)アドバイスのコストの低下、(2)アドバイスへのアクセスの容易化、(3)フィナンシャル・アドバイザー(FA)の責務と消費者救済の明確化に関して提言がなされた。
  3. このような制度面の見直しを受け、金融事業者の側においても、FAが顧客本意の投資アドバイスに注力できるよう、様々な取り組みが進められている。例えば、プラットフォーム業者が適切なプロダクトの選定・絞り込み機能をFAに提供したり、大手ウェルス・マネジメント会社がコンプライアンスやITなどのミドル・バック分野の対応についてFAを支援したりしている。
  4. 英国では、投資アドバイス市場における需要と供給の両サイドを見て、市場原理だけでは達成できない部分に政策的に対応していくという考え方が取られている。また、英国と日本では前提が異なる部分はあるものの、FAのプロダクト選定やミドル・バックの負担を軽減して顧客サービスに集中できる環境を整備しようとする金融事業者の取り組みも興味深い。英国の投資アドバイス市場をめぐる政策アプローチと、業界の取り組みのいずれについても、引き続き注視する必要があると言えよう。
フィデリティの信託報酬ゼロ戦略と米国資産運用業界のメガトレンド 岡田 功太下山 貴史
  1. フィデリティ・インベストメンツは2018年に、「フィデリティ・ゼロコスト・シリーズ」と呼称する信託報酬が無料のインデックス・ファンドを4本設定した。同シリーズの運用資産総額(AUM)は、設定から約半年間で合計約40億ドル(2019年2月末)に達し、高い注目を集めている。
  2. 近年、米国資産運用業界は、(1)インデックス・ファンド及びETFの台頭、(2)経費率の低いファンドに資金が流入する傾向、(3)独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)の台頭等、アクティブ運用を主体とする資産運用会社の経営を根底から揺るがすメガトレンドが観察される。
  3. そのような中、フィデリティのアビゲイル・ジョンソン会長兼CEOは、AUMの増大を目指す資産運用業から、同社の資産運用機能をIFA経由で顧客に提供することによって、管理資産総額(AUA)の拡大を目指す方向へと経営の舵を切った。その中核を担うのが、フィデリティ・クリアリング&カストディ・ソリューションズ(FCCS)である。FCCSは、IFA等に対してフィデリティのサービス等を提供するプラットフォームである。
  4. IFAがFCCSのプラットフォーム経由でマネージド・アカウント(ファンドラップやSMA)を提供する場合、個人投資家は(1)アドバイザリー・フィー(フィデリティ・インベストメンツが取得)、(2)マネージド・アカウントに組み入れられるファンドの信託報酬(ファンドの運用会社が取得)、(3)残高フィー(IFAが取得)の3つを合計した手数料を負担する。今般のフィデリティ・ゼロコスト・シリーズの狙いは(2)の削減である。
  5. 信託報酬が無料であることは、個人投資家にとって魅力的であることに加え、顧客からの預かり資産残高を増大させることで、(3)の残高フィーの拡大を志向するIFAにとっても有用である。そのため、より多くのIFAがフィデリティ・ゼロコスト・シリーズを活用する可能性があり、結果的にFCCSのAUAが増加し、(1)が増大する可能性もある。
  6. フィデリティ・インベストメンツの、「AUMの増大」から「AUAの増大」への経営戦略転換を受けて、JPモルガン等の他の金融機関も、現在、信託報酬を無料とした商品の組成を検討している。今後もダイナミックに変貌を遂げる米国資産運用業界の動向は注目に値する。
気候変動リスクを巡るアセットマネージャーの動向 板津 直孝
  1. 米国大手運用会社のブラックロックは、2019年2月に公表したレポートで、持続可能なポートフォリオの構築が投資収益を必ずしも損なわないことなどを示すと共に、持続可能な投資はもはやニッチではなく主流になりつつあると指摘した。同社は、ESG投資の中でも気候変動をポートフォリオの重要なリスク要因に位置づけているが、同様な動向は、モルガン・スタンレーとブルームバーグが2018年11月に公表した米国のアセットマネージャーの調査結果からも窺うことができる。
  2. こうした動きの背景にある状況変化として、化石燃料除外インデックスの実績のような運用に係る動向に加え、世界的な気候変動訴訟の増加、中央銀行及び金融監督当局による気候変動リスクの管理強化などが指摘できる。
  3. インベストメントチェーンの最上位に位置するアセットマネージャーは、気候変動をポートフォリオのリスク要因として位置づけ、気候関連の情報開示を投資先企業に対して求めることにより、持続可能なポートフォリオを構築することができる。こうしたアセットマネージャーの特性を踏まえ、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)は、アセットマネージャー向けに、補助ガイダンスや情報開示の現状における課題を示している。
  4. アセットマネージャーの顧客であるアセットオーナーは、気候関連のリスク及び機会がどのように管理されているかを理解するに当たって、アセットマネージャーからの報告に依存しているため、アセットマネージャーの気候関連情報開示は、アセットオーナーにとっても極めて重要となる。また、当該情報開示の強化は、ミクロプルーデンス分野とマクロプルーデンス分野における金融監督上の対応に資することにもなる。
  5. アセットマネージャーには、ポートフォリオの気候変動リスクに対するレジリエンス(耐性)を示すことなどを通じて、アセットオーナー及び、中央銀行及び金融監督当局のニーズを満たすことが、一層求められていくことになろう。
中国における民営化なき国有企業改革の行方
−次善策としての公平かつ競争的市場環境の構築−
関 志雄
  1. 計画経済から市場経済への移行過程にある中国は、国有企業に民間資本を取り入れる「混合所有制改革」を進めている。その最大の狙いは、公平かつ競争的市場環境の確立とコーポレート・ガバナンスの強化を通じて、国有企業の効率を改善することである。しかし、混合所有制改革がその最も有効な手段であるかどうかは疑問である。まず、混合所有制改革の目的が一部の業種における国有企業の独占状態を打破することであれば、最善の方法は、異なる所有制の企業、特に民営企業が国有企業と同じ条件下で、公平に競争できるようにすることである。また、混合所有制改革の目的が株主構造を変えることを通じてコーポレート・ガバナンスを含む経営体制に変化をもたらすことであれば、国は、民営化を通じて、所有者という立場で国有企業を支配することを改めなければならない。
  2. 民営化の推進が政治的に無理であるならば、次善の策として改革の重点を公平かつ競争的市場環境の構築に置くべきである。その際、OECDが提唱する「競争中立性原則」が一つの参考になる。それに従えば、国有、民営、外資といった異なる所有制の企業に対し、政府は同じ扱いをし、中立性を保たなければならない。中国政府も、「競争中立性原則」を重視し、それに向けて、行政機関などの政策策定機関は、市場参入許可、産業発展、企業誘致・資金導入、入札募集・入札、政府調達、経営行為規範、資質基準などの市場主体の経済活動に関する規則、規範性文書及びその他の政策措置を制定する際に、公平競争審査を行い、市場競争に対する影響を評価し、市場競争の排除や制限を防止しなければならないという方針を発表している。
  3. 「競争中立性原則」を貫くためには、政府による企業と市場への介入をできるだけ抑えなければならない。具体的に、(1)資源配分における政府の権限を大幅に縮小させる、(2)行政と企業の分離という改革の方向性を堅持する、(3)独占産業の改革を加速させることが求められる。もっとも、政府が国有企業を所有し続ける限り、その政策の実現は困難であろう。望まれる民営化の推進という政策転換に向けて、従来のイデオロギーによる制約を除去しなければならない。
中国政府による株式市場対策の発動
−短期的対応と長期的改革の視点から−
関根 栄一
  1. 2018年10月19日、国務院・劉鶴副総理(金融担当)は、前日の18日の上海総合指数の終値が2,500ポイントを割り込み、終値として2014年11月以来の安値を記録したことを受け、市場安定化策等の5分野から成る株式市場対策を発表した。中国政府が株価維持政策(PKO)を発動するのは、2015年夏の株式市場危機期以来である。
  2. 株式市場対策の背景には、2018年に入り、政府の政策的誘導によるオフバランス融資の削減が進む中で、民間の中小企業が株式担保融資を通じて資金調達を行ってきたことがある。株価下落が続くことで、借り手が流動性の問題に直面し、短期金融市場に混乱が発生することを回避する必要があった。
  3. 株式市場対策は、短期的には、(1)保険会社や証券会社が組成するファンド等を通じた株式担保融資の継続または担保株式の買取りを支援、(2)中国証券監督管理委員会によるM&A審査の迅速化、(3)中国人民銀行による再保証を通じた民間企業の社債発行支援の三つの柱から構成されている。
  4. また、株式市場対策には、(1)銀行理財子会社による資本市場での投資の容認といった機関投資家の市場参入促進、(2)会社法の改正による自社株買いの促進、といった制度改正を伴う中長期的な市場育成措置も含まれている。
  5. 今回、株式市場対策が必要となった背景には、民間の中小企業の資金調達難の問題がある。当面は、政府が銀行に貸出目標を設定して対応する方針が出ているが、中長期的には、金融仲介のゆがみの解消に向け、資本市場を通じたリスクマネーの供給を図り、直接金融の割合を高めていくことが重要である。
モバイルアプリを使った株式取引の普及と中国証券業界の変化 宋 良也
  1. 中国における株式取引は、店頭での注文、電話委託を経て、インターネットの普及に伴い、オンライン化してきた。第3世代移動通信システム(3G)が導入された2009年以降は、スマートフォンが普及したことにより、モバイルでの株式取引が本格的に可能となった。2018年末時点で、約1.4億人にのぼる中国個人投資家のほとんどは、株式取引をオンラインで行っている。投資家がスマートフォンを操作して発注を行う際、インターフェースを提供しているのは、多くの場合、証券会社ではなく株式取引アプリを開発している第三者企業である。
  2. 中国において最大のシェアを有する株式取引アプリは、131社の証券会社のうち90社近くと提携している「同花順」である。同社のアプリでは、複数証券会社での口座開設・株式取引が行えるという利便性があり、投資家の人気を集めた。また、金融情報、公募ファンド代理販売などのサービスを無料で投資家に提供すると同時に、自社が開発するアルゴリズムを用いた銘柄選択機能搭載のアプリなどの有料サービスで差別化を図っている。
  3. 一方、中国の証券会社は、手数料率の引下げ競争激化という背景の下で、従来のブローカレッジ業務が限界を迎えつつある。大手証券会社は、自社で開発した株式取引アプリを通じて顧客データの囲い込みを行い、富裕顧客向けの投資助言や資産運用など対面サービスの高度化を目指している。アプリ開発企業との関係は、従来の協力関係から競合関係へと変化している。
  4. 大手証券会社は既に、当局の規制強化を口実に、同花順等の第三者企業との協力関係を断ち始めている。一方、同花順も公募ファンドなど金融商品の代理販売や、AI(人工知能)を用いたロボ・アドバイザー等、付加価値の高い資産運用サービスを投資家に提供することに注力している。第三者の株式取引アプリ会社と大手証券会社の間で顧客インターフェースを巡る競争が、どのような形で投資家にとってのサービス向上に繋がっていくのか、注目される。
外資系プライベートバンクの存在感が高まりつつあるタイのウェルス・マネジメント業界 北野 陽平武井 悠輔
  1. 近年、タイのウェルス・マネジメント業界では、外資系プライベートバンクの存在感が高まりつつある。背景には、堅調な経済成長や株価の上昇等を要因として、富裕層の人口及び資産が着実に拡大していることがある。大手コンサルティング会社キャップジェミニによると、100万米ドル以上の投資可能な資産を保有する富裕層の人口はタイ国内で2008年末の4.2万人から2017年末には12.3万人に、富裕層の資産は同期間に1,900億米ドルから6,300億米ドルに増加した。
  2. また、外資系プライベートバンクによるタイへの参入を促す制度的要因として、(1)相続税及び贈与税の導入に伴う資産保全のための助言ニーズの高まり、(2)外国為替規制の緩和による外国証券投資の自由度の向上、(3)リスクの高いまたは複雑な金融商品への投資に係る規制の緩和、がある。タイの富裕層の資産運用ニーズが多様化・高度化する中、豊富なノウハウを持ち、オフショア市場の機能を活用できる外資系プライベートバンクの事業機会が拡大している。
  3. 2014年以降にタイのウェルス・マネジメント市場に参入した主な外資系プライベートバンクとして、スイスを本拠とするロンバー・オディエ、クレディ・スイス、ジュリアス・ベアの3行が挙げられる。参入の契機や形態は様々であり、ロンバー・オディエとジュリアス・ベアのようにカシコン銀行やサイアム商業銀行といった地場大手金融機関と提携したケースもあれば、クレディ・スイスのように単独で参入した事例もある。
  4. 今後、タイのウェルス・マネジメント業界の発展を後押しする要因として、事業・資産承継等に関する私益信託法(Private Trust Act)の導入が挙げられる。外資系プライベートバンクによる参入は、地場金融機関の富裕層向け金融サービスの質向上に貢献していると言え、国内資本市場の発展にもつながると考えられる。タイのウェルス・マネジメント業界の歴史はまだ浅いが、様々な取り組みが始まっており、今後の展開が注目されよう。
要約
時流 情報銀行(情報信託機能)
−検討の経緯と今後の課題−
東京大学大学院法学政治学研究科教授 宍戸 常寿

近時注目されている、「情報銀行」あるいは「情報信託機能」は、本人の関与の下でパーソナルデータを流通・活用するためのしくみである。パーソナルデータの保護と利活用をトレードオフの関係として捉えるのではなく、逆に本人によるコントローラビリティを高めることこそが活用・流通を進めることにつながるという、“Win-Win”の視点が、その基本にある。本稿では、検討の経緯に触れながら、情報銀行(情報信託機能)の特徴と今後の課題について解説することにしたい。

オーストラリアのスーパーアニュエーションが金融市場ならびに経済成長に果たした役割 オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院 准教授 沖本 竜義
  1. オーストラリアは、投資信託大国である。2018年9月の時点で、オーストラリアの投資信託残高は2.9兆豪ドルであるのに対して、同時点での日本の残高は2.6兆豪ドルとなっている 。2017年のオーストラリアのGDPは1.8兆豪ドル程度、日本のGDPは6兆豪ドルを超えるレベルであることを考えると、日本と比較して、オーストラリアの投資信託残高が極めて高いことが理解できるであろう。オーストラリアが投資信託大国となった大きな理由は、スーパーアニュエーションという強制加入で事前積立方式の私的年金の存在である。
  2. スーパーアニュエーションから多額の資金が国内金融市場に流れ、オーストラリアの株式や債券だけではなくインフラ投資や未上場の新興企業などにも安定した資金を供給し、オーストラリア経済の成長や金融市場の安定化にも大きく寄与してきた可能性が大きい。このような観点から、本稿では、オーストラリアのスーパーアニュエーションが経済や金融市場の安定化に与えた影響及び、日本に対するインプリケーションを議論したい。
急成長する中国のグリーンボンド発行市場の政策・法的枠組み 関根 栄一
  1. 中国のグリーンボンド市場の急成長が、国際的な市場参加者から注目を集めている。中国で、グリーンボンドの発行に関する政策・法的枠組みが整備され始めたのは2015年末であり、短期間のうちに、中国政府がトップダウンで取り組んできた成果と言える。
  2. 特に、2016年8月に中国人民銀行等の計7部門が公布した「グリーン金融体系の構築に関する指導意見」では、グリーンボンドについて、複数の官庁によって管理されてきた中国の債券市場制度体系を踏まえつつも、発行手引きや、資金使途、第三者認証等に関する共通の指針が示され、順次、ルール整備がなされてきている。
  3. グリーンボンドの個別銘柄に関する法的枠組みを見ると、発行時の審査の迅速化や手続きの簡素化によって、当局は、同じ債券でも優先的にグリーンボンドの発行を促そうとしている。自主規制機関として、中国金融学会のグリーン金融専門委員会が、対象プロジェクトの基準作りに関わっていることも中国の特徴である。
  4. 一方、中国のグリーンボンド市場では、銀行等による金融債が絶対多数を占め、社債の割合が小さく、また投資家への認知度が低いなどといった課題が、中国国内の研究者からも指摘されている。中国が今後、成熟したグリーンボンド市場を構築するためにどのような道をたどっていくかは、ゼロから同市場を立ち上げる国の当局や市場参加者の関心を集め続けるであろう。
中国のグリーンボンド市場 江夏 あかね関根 栄一宋 良也
  1. グリーンボンドは、2000年代後半に誕生し、欧米での発行が中心的だったが、2016年頃から中国の発行体等による発行が堅調に伸びており、2018年の発行額は米国に次いで2位となっている。中国のグリーンボンド市場が活況となっている背景としては、中国政府がグリーンファイナンスの推進を重要施策として掲げるとともに、複数の管理・監督主体が、発行体や投資家に対してグリーンボンドの発行や投資を促進する複数の施策を講じていることが挙げられる。
  2. 中国におけるグリーンボンドの発行状況では、(1)発行体セクター別では商業銀行等が最も多く、事業会社が続く構造、(2)発行市場は、銀行間債券市場が中心、(3)資金使途は、クリーン・エネルギー、汚染防止・管理等が中心、(4)多くの銘柄が外部評価を取得、といった特徴が挙げられる。
  3. 中国におけるグリーンボンドの資金使途について、中国国内基準には、国際的に浸透している基準に適合しない資金使途等が含まれている。適合しない要因としては、グリーンの定義や調達資金のグリーンプロジェクトへの充当割合の違い等が中心となっている。気候債券イニシアチブ(CBI)によると、中国の発行体等によるグリーンボンドの発行額(2016〜2018年)のうち、国際基準に適合していたものは全体の6〜7割程度であった。
  4. 中国のグリーンボンドをめぐっては、国内基準が国際基準と異なる資金使途となっている問題が注目されるが、国際基準を満たす発行額のみでも世界的に見て十分に存在感のある規模となっている。その意味で、今後も中国におけるグリーンボンドの発行・投資状況やグリーンボンド市場の成長を支える仕組み等が、日本を含めた世界各国から注目される状況が続くと想定される。
キャッシュレス決済の本命は? 淵田 康之
  1. 昨今、わが国ではQRコード決済が注目を集めているが、多くの国ではコンタクトレス決済が主流となっている。これまでコンタクトレス決済の普及が著しく遅れていた米国でも、ようやくその導入が本格化しつつある。
  2. ニューヨークの地下鉄やバスでも、本年5月、コンタクトレス決済が導入される。専用カードだけではなく、通常のクレジットカードやデビットカード、Apple Payなどでも乗車可能となる。こうしたオープン・ループ・システムのコンタクトレス決済による交通料金徴収は、ロンドンなど他の都市でも導入されている。
  3. 一方、香港の地下鉄も、オープン・ループ・システムの採用を決めたが、コンタクトレス決済に加えて、QRコード決済も利用可能とする。コンタクトレス決済かQRコード決済か、またオープン・ループかクローズド・ループか、それぞれメリット・デメリットがある。
  4. 米国でも、スターバックスやウォルマートは、QRコードを用い、自社に閉じた独自の決済サービスを提供している。モバイル個人間送金、QRコード決済、コンタクトレス決済は、それぞれのコスト・ベネフィットや、各国固有の諸事情を踏まえ、一定のすみ分けがされていくと考えられる。
  5. わが国では既にコンタクトレス決済が普及している店舗が、QRコード決済を新たに導入し、その主たる利用先となるなど、本来のすみ分けが実現していない。またコンタクトレス決済を含め、決済手段間の互換性に乏しく、銀行界による統一的なモバイル個人間送金も実現していない。こうしたなか、交通系決済サービスについては、互換性のある専用コンタクトレス・カードが普及しており、今後、QRコード決済の導入や個人間送金を含むモバイル・サービスの利便性向上、及び非交通分野での利用の一層の拡大などが実現していけば、わが国のキャッシュレス決済において、存在感を高めていく可能性がある。
金融機関にとって注目される家計資金の新たな動き 宮本 佐知子
  1. 近年の金融市場環境の変化や情報通信技術(ICT)の革新は、金融機関が直面している経営戦略上の大きな課題であるが、これらは家計資金においても金融機関が見逃せない動きを生じさせている。
  2. まず、近年の家計預金を取り巻く金融市場環境を見ると、リーマン・ブラザースの経営破綻とその後の世界金融危機を境に預金金利は急速に低下し、日本銀行によるマイナス金利政策導入後は一段と低下した。この間、定期性預金と流動性預金の金利差は大きく縮小しており、それに伴い家計資金は定期性預金から純流出し、流動性預金や現金等へ純流入するようになっている。
  3. 次に、ICTの革新やスマートフォンの普及、金融規制緩和を背景とする新たな金融サービスの動きを見ると、決済分野では近年、クレジットカードや電子マネー 、デビットカードといったキャッシュレス決済の利用が増えている。家計はこれらを目的や金額によって使い分けているが、年齢階層別にも使い方が異なっている。さらに近年は、異業種による決済・金融サービスへの参入も増えており、家計の選択肢は広がっている。
  4. 新たな金融サービスの動きは、資産運用分野でも増えている。特に、家計が投資を実践しやすくすることを目指した新規参入企業のサービスは、操作性に優れカスタマーエクスペリエンスを重視したものも多いことが魅力的とされる。また、既存金融機関でも、家計が投資を実践しやすくなるような取り組みや、グループ内の他金融サービスも使いやすくする取り組みが進められている。
  5. これらにより、総じて家計資金は定期性預金から他資産へ動きやすくなり、そのスピードも速まっていると考えられる。金融機関では、このような家計資金の変化を踏まえて、顧客ごとにきめ細やかな対応をコストに見合う形で実践することが求められよう。同時に、特に預金取扱機関においては、これまで定期性預金が持っていた家計資金の粘着機能を補完するための施策を工夫し、顧客のロイヤルティを高めることが一層大切な課題になっている。
顧客の最善利益を意識してビジネス変革を図る米大手証券会社
−人事・報酬とデジタル戦略を中心に−
岡田 功太下山 貴史
  1. 米国の証券業界は、近年、顧客の最善利益を意識する形での、個人向けビジネスにおける変革を迫られている。その契機となったのは、米労働省が2016年4月に最終化したフィデューシャリー・デューティー規則(DOLFD規則)である。同規則自体は行政手続法違反であるとして提訴され、2018年6月に無効化されたものの、その後、証券取引委員会が米労働省に代わって、顧客の最善利益の追求義務を課す規制の策定を進めることとなった。そのため、米大手証券会社は、無効になってもなお、DOLFD規則の影響下でビジネス改革を進めている。
  2. 第一に、営業担当者の報酬体系の変更である。メリルリンチは、顧客の預かり資産を増加させ、かつ、大口の新規顧客を獲得した営業担当者に対して追加的な報酬を支払う。他方で、それができなかった営業担当者については、報酬を減額することで、顧客の最善利益に適う形での営業担当者の生産性の向上を目指している。
  3. 第二に、営業担当者の雇用方針の変化である。DOLFD規則が最終化されて以降、所属先の意向ではなく、自身の考え方に基づいて顧客の最善利益を追求すべく、独立系ファイナンシャル・アドバイザーに転身する者が増加した。そのため、米大手証券会社は、営業担当者との契約を変更するなどして、顧客の流出を抑止しようとしている。
  4. 第三に、デジタル戦略である。モルガン・スタンレーは、小口投資家を主眼とするデジタル・プラットフォームを高度化し、営業担当者がパーソナライズしたファイナンシャル・プランニングを提供できるようにした。これを活用する営業担当者には追加的な報酬を支払う一方で、それができない営業担当者の報酬は減額する。
  5. 米大手証券会社の個人向け営業部門の改革は、企画、人事、IT等の各機能が横断的に取り組んで初めて成功するものとなっている。その際、DOLFD規則の理念を把握した上で適切な報酬体系を設定することが、足下では重要な鍵を握っていると見受けられる。今後、いかなる変貌を遂げていくのか、引き続き注目すべきであると言えよう。
英国の投資アドバイス市場改善に向けた政策と民間事業者の対応
−すべての個人に適切かつ十分な投資サービスが提供される方法の模索−
神山 哲也磯部 昌吾
  1. 英国では、金融事業者が顧客の最善の利益を追求することを確保するべく、10年以上に渡り議論と政策対応が行われてきた。まず、金融サービス機構(FSA、当時)は、従前の投資アドバイスが必ずしも顧客の最善の利益に沿う形で提供されていないとして、個人向け金融商品販売制度改革(RDR)を2012年末から段階的に実施した。RDRの柱は、(1)アドバイザー手数料(運用会社から販売会社へのキックバックの禁止)、(2)アドバイス・サービスの説明・開示(独立・限定アドバイスの明確化)、(3)プロフェッショナル基準の高度化(継続研修と資格要件の引上げ)だった。
  2. 更に、投資アドバイスが全ての消費者にとって必ずしも十分に機能していないとの認識から、低コストでアクセスしやすい投資アドバイス市場の発展・促進を目的として、2015年8月に財務省と金融行為規制機構(FCA)が共同で金融アドバイス市場レビュー(FAMR)を開始した。FAMRでは、(1)アドバイスのコストの低下、(2)アドバイスへのアクセスの容易化、(3)フィナンシャル・アドバイザー(FA)の責務と消費者救済の明確化に関して提言がなされた。
  3. このような制度面の見直しを受け、金融事業者の側においても、FAが顧客本意の投資アドバイスに注力できるよう、様々な取り組みが進められている。例えば、プラットフォーム業者が適切なプロダクトの選定・絞り込み機能をFAに提供したり、大手ウェルス・マネジメント会社がコンプライアンスやITなどのミドル・バック分野の対応についてFAを支援したりしている。
  4. 英国では、投資アドバイス市場における需要と供給の両サイドを見て、市場原理だけでは達成できない部分に政策的に対応していくという考え方が取られている。また、英国と日本では前提が異なる部分はあるものの、FAのプロダクト選定やミドル・バックの負担を軽減して顧客サービスに集中できる環境を整備しようとする金融事業者の取り組みも興味深い。英国の投資アドバイス市場をめぐる政策アプローチと、業界の取り組みのいずれについても、引き続き注視する必要があると言えよう。
フィデリティの信託報酬ゼロ戦略と米国資産運用業界のメガトレンド 岡田 功太下山 貴史
  1. フィデリティ・インベストメンツは2018年に、「フィデリティ・ゼロコスト・シリーズ」と呼称する信託報酬が無料のインデックス・ファンドを4本設定した。同シリーズの運用資産総額(AUM)は、設定から約半年間で合計約40億ドル(2019年2月末)に達し、高い注目を集めている。
  2. 近年、米国資産運用業界は、(1)インデックス・ファンド及びETFの台頭、(2)経費率の低いファンドに資金が流入する傾向、(3)独立系ファイナンシャル・アドバイザー(IFA)の台頭等、アクティブ運用を主体とする資産運用会社の経営を根底から揺るがすメガトレンドが観察される。
  3. そのような中、フィデリティのアビゲイル・ジョンソン会長兼CEOは、AUMの増大を目指す資産運用業から、同社の資産運用機能をIFA経由で顧客に提供することによって、管理資産総額(AUA)の拡大を目指す方向へと経営の舵を切った。その中核を担うのが、フィデリティ・クリアリング&カストディ・ソリューションズ(FCCS)である。FCCSは、IFA等に対してフィデリティのサービス等を提供するプラットフォームである。
  4. IFAがFCCSのプラットフォーム経由でマネージド・アカウント(ファンドラップやSMA)を提供する場合、個人投資家は(1)アドバイザリー・フィー(フィデリティ・インベストメンツが取得)、(2)マネージド・アカウントに組み入れられるファンドの信託報酬(ファンドの運用会社が取得)、(3)残高フィー(IFAが取得)の3つを合計した手数料を負担する。今般のフィデリティ・ゼロコスト・シリーズの狙いは(2)の削減である。
  5. 信託報酬が無料であることは、個人投資家にとって魅力的であることに加え、顧客からの預かり資産残高を増大させることで、(3)の残高フィーの拡大を志向するIFAにとっても有用である。そのため、より多くのIFAがフィデリティ・ゼロコスト・シリーズを活用する可能性があり、結果的にFCCSのAUAが増加し、(1)が増大する可能性もある。
  6. フィデリティ・インベストメンツの、「AUMの増大」から「AUAの増大」への経営戦略転換を受けて、JPモルガン等の他の金融機関も、現在、信託報酬を無料とした商品の組成を検討している。今後もダイナミックに変貌を遂げる米国資産運用業界の動向は注目に値する。
気候変動リスクを巡るアセットマネージャーの動向 板津 直孝
  1. 米国大手運用会社のブラックロックは、2019年2月に公表したレポートで、持続可能なポートフォリオの構築が投資収益を必ずしも損なわないことなどを示すと共に、持続可能な投資はもはやニッチではなく主流になりつつあると指摘した。同社は、ESG投資の中でも気候変動をポートフォリオの重要なリスク要因に位置づけているが、同様な動向は、モルガン・スタンレーとブルームバーグが2018年11月に公表した米国のアセットマネージャーの調査結果からも窺うことができる。
  2. こうした動きの背景にある状況変化として、化石燃料除外インデックスの実績のような運用に係る動向に加え、世界的な気候変動訴訟の増加、中央銀行及び金融監督当局による気候変動リスクの管理強化などが指摘できる。
  3. インベストメントチェーンの最上位に位置するアセットマネージャーは、気候変動をポートフォリオのリスク要因として位置づけ、気候関連の情報開示を投資先企業に対して求めることにより、持続可能なポートフォリオを構築することができる。こうしたアセットマネージャーの特性を踏まえ、気候関連財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)は、アセットマネージャー向けに、補助ガイダンスや情報開示の現状における課題を示している。
  4. アセットマネージャーの顧客であるアセットオーナーは、気候関連のリスク及び機会がどのように管理されているかを理解するに当たって、アセットマネージャーからの報告に依存しているため、アセットマネージャーの気候関連情報開示は、アセットオーナーにとっても極めて重要となる。また、当該情報開示の強化は、ミクロプルーデンス分野とマクロプルーデンス分野における金融監督上の対応に資することにもなる。
  5. アセットマネージャーには、ポートフォリオの気候変動リスクに対するレジリエンス(耐性)を示すことなどを通じて、アセットオーナー及び、中央銀行及び金融監督当局のニーズを満たすことが、一層求められていくことになろう。
中国における民営化なき国有企業改革の行方
−次善策としての公平かつ競争的市場環境の構築−
関 志雄
  1. 計画経済から市場経済への移行過程にある中国は、国有企業に民間資本を取り入れる「混合所有制改革」を進めている。その最大の狙いは、公平かつ競争的市場環境の確立とコーポレート・ガバナンスの強化を通じて、国有企業の効率を改善することである。しかし、混合所有制改革がその最も有効な手段であるかどうかは疑問である。まず、混合所有制改革の目的が一部の業種における国有企業の独占状態を打破することであれば、最善の方法は、異なる所有制の企業、特に民営企業が国有企業と同じ条件下で、公平に競争できるようにすることである。また、混合所有制改革の目的が株主構造を変えることを通じてコーポレート・ガバナンスを含む経営体制に変化をもたらすことであれば、国は、民営化を通じて、所有者という立場で国有企業を支配することを改めなければならない。
  2. 民営化の推進が政治的に無理であるならば、次善の策として改革の重点を公平かつ競争的市場環境の構築に置くべきである。その際、OECDが提唱する「競争中立性原則」が一つの参考になる。それに従えば、国有、民営、外資といった異なる所有制の企業に対し、政府は同じ扱いをし、中立性を保たなければならない。中国政府も、「競争中立性原則」を重視し、それに向けて、行政機関などの政策策定機関は、市場参入許可、産業発展、企業誘致・資金導入、入札募集・入札、政府調達、経営行為規範、資質基準などの市場主体の経済活動に関する規則、規範性文書及びその他の政策措置を制定する際に、公平競争審査を行い、市場競争に対する影響を評価し、市場競争の排除や制限を防止しなければならないという方針を発表している。
  3. 「競争中立性原則」を貫くためには、政府による企業と市場への介入をできるだけ抑えなければならない。具体的に、(1)資源配分における政府の権限を大幅に縮小させる、(2)行政と企業の分離という改革の方向性を堅持する、(3)独占産業の改革を加速させることが求められる。もっとも、政府が国有企業を所有し続ける限り、その政策の実現は困難であろう。望まれる民営化の推進という政策転換に向けて、従来のイデオロギーによる制約を除去しなければならない。
中国政府による株式市場対策の発動
−短期的対応と長期的改革の視点から−
関根 栄一
  1. 2018年10月19日、国務院・劉鶴副総理(金融担当)は、前日の18日の上海総合指数の終値が2,500ポイントを割り込み、終値として2014年11月以来の安値を記録したことを受け、市場安定化策等の5分野から成る株式市場対策を発表した。中国政府が株価維持政策(PKO)を発動するのは、2015年夏の株式市場危機期以来である。
  2. 株式市場対策の背景には、2018年に入り、政府の政策的誘導によるオフバランス融資の削減が進む中で、民間の中小企業が株式担保融資を通じて資金調達を行ってきたことがある。株価下落が続くことで、借り手が流動性の問題に直面し、短期金融市場に混乱が発生することを回避する必要があった。
  3. 株式市場対策は、短期的には、(1)保険会社や証券会社が組成するファンド等を通じた株式担保融資の継続または担保株式の買取りを支援、(2)中国証券監督管理委員会によるM&A審査の迅速化、(3)中国人民銀行による再保証を通じた民間企業の社債発行支援の三つの柱から構成されている。
  4. また、株式市場対策には、(1)銀行理財子会社による資本市場での投資の容認といった機関投資家の市場参入促進、(2)会社法の改正による自社株買いの促進、といった制度改正を伴う中長期的な市場育成措置も含まれている。
  5. 今回、株式市場対策が必要となった背景には、民間の中小企業の資金調達難の問題がある。当面は、政府が銀行に貸出目標を設定して対応する方針が出ているが、中長期的には、金融仲介のゆがみの解消に向け、資本市場を通じたリスクマネーの供給を図り、直接金融の割合を高めていくことが重要である。
モバイルアプリを使った株式取引の普及と中国証券業界の変化 宋 良也
  1. 中国における株式取引は、店頭での注文、電話委託を経て、インターネットの普及に伴い、オンライン化してきた。第3世代移動通信システム(3G)が導入された2009年以降は、スマートフォンが普及したことにより、モバイルでの株式取引が本格的に可能となった。2018年末時点で、約1.4億人にのぼる中国個人投資家のほとんどは、株式取引をオンラインで行っている。投資家がスマートフォンを操作して発注を行う際、インターフェースを提供しているのは、多くの場合、証券会社ではなく株式取引アプリを開発している第三者企業である。
  2. 中国において最大のシェアを有する株式取引アプリは、131社の証券会社のうち90社近くと提携している「同花順」である。同社のアプリでは、複数証券会社での口座開設・株式取引が行えるという利便性があり、投資家の人気を集めた。また、金融情報、公募ファンド代理販売などのサービスを無料で投資家に提供すると同時に、自社が開発するアルゴリズムを用いた銘柄選択機能搭載のアプリなどの有料サービスで差別化を図っている。
  3. 一方、中国の証券会社は、手数料率の引下げ競争激化という背景の下で、従来のブローカレッジ業務が限界を迎えつつある。大手証券会社は、自社で開発した株式取引アプリを通じて顧客データの囲い込みを行い、富裕顧客向けの投資助言や資産運用など対面サービスの高度化を目指している。アプリ開発企業との関係は、従来の協力関係から競合関係へと変化している。
  4. 大手証券会社は既に、当局の規制強化を口実に、同花順等の第三者企業との協力関係を断ち始めている。一方、同花順も公募ファンドなど金融商品の代理販売や、AI(人工知能)を用いたロボ・アドバイザー等、付加価値の高い資産運用サービスを投資家に提供することに注力している。第三者の株式取引アプリ会社と大手証券会社の間で顧客インターフェースを巡る競争が、どのような形で投資家にとってのサービス向上に繋がっていくのか、注目される。
外資系プライベートバンクの存在感が高まりつつあるタイのウェルス・マネジメント業界 北野 陽平武井 悠輔
  1. 近年、タイのウェルス・マネジメント業界では、外資系プライベートバンクの存在感が高まりつつある。背景には、堅調な経済成長や株価の上昇等を要因として、富裕層の人口及び資産が着実に拡大していることがある。大手コンサルティング会社キャップジェミニによると、100万米ドル以上の投資可能な資産を保有する富裕層の人口はタイ国内で2008年末の4.2万人から2017年末には12.3万人に、富裕層の資産は同期間に1,900億米ドルから6,300億米ドルに増加した。
  2. また、外資系プライベートバンクによるタイへの参入を促す制度的要因として、(1)相続税及び贈与税の導入に伴う資産保全のための助言ニーズの高まり、(2)外国為替規制の緩和による外国証券投資の自由度の向上、(3)リスクの高いまたは複雑な金融商品への投資に係る規制の緩和、がある。タイの富裕層の資産運用ニーズが多様化・高度化する中、豊富なノウハウを持ち、オフショア市場の機能を活用できる外資系プライベートバンクの事業機会が拡大している。
  3. 2014年以降にタイのウェルス・マネジメント市場に参入した主な外資系プライベートバンクとして、スイスを本拠とするロンバー・オディエ、クレディ・スイス、ジュリアス・ベアの3行が挙げられる。参入の契機や形態は様々であり、ロンバー・オディエとジュリアス・ベアのようにカシコン銀行やサイアム商業銀行といった地場大手金融機関と提携したケースもあれば、クレディ・スイスのように単独で参入した事例もある。
  4. 今後、タイのウェルス・マネジメント業界の発展を後押しする要因として、事業・資産承継等に関する私益信託法(Private Trust Act)の導入が挙げられる。外資系プライベートバンクによる参入は、地場金融機関の富裕層向け金融サービスの質向上に貢献していると言え、国内資本市場の発展にもつながると考えられる。タイのウェルス・マネジメント業界の歴史はまだ浅いが、様々な取り組みが始まっており、今後の展開が注目されよう。

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