特集:コロナ禍への政策対応の進展

コロナ禍で過剰債務を抱える英国の中小企業
-資本構成の再構築を提言するシティUK-

磯部 昌吾

要約

  1. 英国の金融業界団体ザ・シティUK(以下、シティUK)は、2020年7月16日、持続不可能な債務を抱えた中小企業の資本構成の再構築に向けた提言を公表した。シティUKの推計によると、コロナ禍によって英国企業は大きな打撃を被っており、2021年3月末までに、350億ポンドの政府保証貸出を含めて持続不可能な債務が1,000億ポンドに上る可能性がある。
  2. 大企業であれば資本市場を通じた資本調達によって資本構成を改善できるが、中小企業にはそうしたルートを使った資本調達は難しい。このため、持続不可能な政府保証貸出を、租税債務や長期劣後債務、優先株に転換することで、中小企業の資本構成を再構築し、債務の返済に柔軟性を持たせることを提言している。また、転換した長期劣後債務や優先株を保有する政府所有の英国再生会社を設立し、そのファイナンスに将来的に民間資金を活用することを提案している。
  3. このほか、コロナ禍によって成長資本の供給が先細りする懸念があることから、優先株を含む成長資本の供給スキームについても提案しており、英国の非営利組織スケールアップ研究所とフィンテック業界団体イノベート・ファイナンスから別途詳細な提言がなされる予定となっている。
  4. シティUKの提言の実現には、英国政府の立法措置が必要になると考えられるが、政府財政が大幅に悪化する中で、具体的な動きにつながるかは、本稿執筆時点では明らかではない。コロナ禍による企業債務の不良債権化は各国で懸念されていることから、英国が民間資金を活用しつつ企業の持続可能性をどのように確保するべく取り組んでいくのか、今後も注目であろう。