特集:コロナ禍への政策対応の進展

米国FRBに求められる金融政策と金融規制の整合性
-ポストコロナを見据えて-

岡田 功太

要約

  1. 短期金融市場の動向は、連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策や準備預金の水準と密接な関係にある。FRBは2019年4月に、米国銀行システムが必要とする準備預金額の最低水準は、8,000億ドルから9,000億ドルであると推定していた。しかし、2019年9月中旬、当時の準備預金額はそれを上回る水準であったにもかかわらず、レポ金利は急騰した。
  2. FRBは、2017年10月から2019年7月にかけて、バランスシートの正常化を実施し、その間に大手米銀は準備預金額の削減を迫られた。他方で、グローバル金融危機以降に厳格化された金融規制により、大手米銀は、潤沢な準備預金保有のインセンティブを強めていた。そのため、大手米銀はレポ取引を積極化することができず、ドル資金の貸し手が減少し、2019年9月中旬に、突如としてレポ金利が急騰する事態に発展した。いわば施策面の不整合が短期金融市場の不安定化を招き、グローバル金融危機以来の大規模レポ・プログラムの開始を迫られる結果となったと言える。
  3. その改善策が打ち出される前に、2020年3月頃から新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化した。FRBは、バランスシートの再拡大を余儀なくされ、レバレッジ比率規制を時限的に緩和し、預金準備率をゼロに引き下げた。これらは、コロナ禍対応策というよりも、金融規制と金融政策の不整合の改善策として、2019年9月中旬のレポ金利急騰時か、それ以前から実施されるべきであったとも指摘されている。
  4. 将来的に、コロナ禍が終息した後に、FRBは、バランスシートの正常化の再開を検討することも考えられる。その際、2019年9月中旬のように、再びレポ金利の急騰を招くような事態は起こしてはならないだろう。ポストコロナ時代において、FRBは、金融規制の運用手法の変更や調整も視野に入れた、包括的な政策運営が求められるのではないだろうか。