アセットマネジメント

米国州政府による確定拠出型年金プランの自動化制度の挑戦
-オレゴン州のオレゴン・セーブズを中心に-

岡田 功太、中村 美江奈

要約

  1. 米国では、退職プランのカバレッジを拡大すべく、米国州政府がスポンサーとなって確定拠出型年金プラン(DCプラン)の自動化制度を導入する動きが広がっている。米国初の事例は、オレゴン州が運営するオレゴン・リタイアメント・セービングズ・プラン(オレゴン・セーブズ)である。同プランは2017年11月に正式に運営を開始した。
  2. オレゴン・セーブズは、税引き後拠出型の個人退職勘定(IRA)の自動化制度である。オレゴン州退職貯蓄理事会が運営し、401(k)プラン等の職域退職プランを提供していない雇用主に対して、一定の要件を満たす全ての従業員をIRAに自動加入させることを義務付けている。拠出は給与天引きで、デフォルト(初期設定)の拠出率は給与の5%であり、10%を上限に毎年1%ずつ引上げられる。
  3. 拠出された資金は、加入者が自らの意思でファンドを選択しない限り、最初の1,000ドルまではオレゴン・セーブズ・キャピタル・プリザベーション・ファンドで運用され、1,000ドルを超えた分からは、オレゴン・セーブズ・ターゲット・デート・ファンドで運用される。つまり、2段階のデフォルト・ファンドが設定されている。
  4. オレゴン・セーブズは、運営開始から約2年で資産総額が2,500万ドルに達し、非加入(オプトアウト)率は3割未満に留まった。加入者の月間の平均拠出額は117ドルと当初の予想を上回った。オレゴン州内の企業に勤務する従業員の退職資産形成の促進に寄与しており、州政府による自動化制度が一定の有効性を持ちうることを示唆している。
  5. 日本においても、iDeCoの自動化制度を構築できれば、幅広い個人の退職資産形成を後押しし、長期に渡る合理的な資産運用の実践に寄与する可能性がある。思い切った方策の一つとして、iDeCoの自動化制度は検討に値するのではないだろうか。