特集2:金融イノベーションの更なる進展

金融サービスを拡大するスーパーアプリのゴジェックとグラブ

武井 悠輔、北野 陽平

要約

  1. 東南アジア域内では近年、大手配車アプリ運営企業が「スーパーアプリ」運営企業へと変貌を遂げるとともに、金融サービス事業を拡大し始めている。こうしたスーパーアプリの代表企業として、インドネシアを本拠とするゴジェックとシンガポールを本拠とするグラブが挙げられる。両社は、フードデリバリーやホテル予約等へ事業領域を拡大する中、電子決済サービスを拡充するとともに、他の金融サービスの提供を開始してきた。
  2. ゴジェックとグラブは、例えばフードデリバリーにおいて決済サービスを提供する中で、加盟店であるレストランや屋台を運営する零細・中小企業の膨大な決済データ等を蓄積することにより、既存の金融機関とは異なる独自の信用評価モデルを構築し、融資業を提供している。また、両社は、運転手や乗客向けの自動車保険で保険事業を開始したが、近年ではアプリ利用者向けに安価な海外旅行保険を提供する等、保険商品の拡充を図っている。さらに、ゴジェックはアプリ利用者等向けに投資商品や資産運用サービスを低コストで提供しており、グラブも今後提供を開始する予定である。
  3. ゴジェックとグラブは、提供するサービスの拡充に伴い、運転手、加盟店、アプリ利用者を含む顧客基盤を大幅に拡大してきた。ゴジェックのアプリのダウンロード数は2020年1月初旬時点で1.3億回、グラブのアプリのダウンロード数は2019年10月時点で1.66億回に達した。
  4. 東南アジア域内では、金融サービスに十分にアクセスできていない個人や零細・中小企業が数多くいる。そうした中、ゴジェックとグラブが巨大な顧客基盤を生かして、中長期的に既存の金融機関を補完する重要な役割を担うことで、金融包摂の促進や金融サービスの大衆化の一翼を担う存在になるか、注目されよう。