特集1:コロナ禍で変容するリテール証券ビジネス

コロナ禍で加速する米国リテール証券業界のデジタル化

岡田 功太

要約

  1. コロナ禍が深刻化する中、JPモルガン、シティバンク、バンク・オブ・アメリカ等は、一部の支店を閉鎖し、ファイナンシャル・アドバイザーの在宅勤務を開始した。当面の間、ロックダウンは継続することから、支店等のオフィス・スペースにおける対面のサービス提供の縮小を余儀なくされている。
  2. 他方で、2020年第1四半期に、ロビンフッドやTDアメリトレード等のオンライン証券会社は合計で約450万件の新規口座開設を実現し、ミレニアル世代の投資未経験者の顧客化に成功している。その要因として、コロナ禍で在宅勤務を行う個人が自宅からオンライン証券取引を開始したことや、これらの個人が売買手数料が無料の証券会社を選好したこと等が挙げられる。
  3. その中でも、チャールズ・シュワブは、著名なフィンテック企業であるモチーフ・インベスティングを買収した上で、オンラインの端株取引サービスの提供を開始し、更なる顧客基盤の拡大に着手している。また、アイキャピタル・ネットワークやアディパー等のオルタナティブ・ファンドを取り扱うオンライン・プラットフォームが台頭し、個人にとってオルタナティブ投資を行い易い環境も整備されている。前者はチャールズ・シュワブ等の金融機関約70社と提携しており、後者はモルガン・スタンレーや、エクイティーゼン及びザンバト等の非上場株式取引プラットフォームと提携している。
  4. コロナ禍の下、ミレニアル世代の証券投資に関するニーズが明らかになった。ただし、同世代の個人は、金融機関から投資アドバイスを受けるより、SNS等を通じて自ら投資に関する情報を得る傾向がある。ポストコロナのリテール証券事業では、富裕層向けまたはマスリテール向けサービスの開発といった金融機関の立場から見た顧客分類等を踏まえた事業展開の重要性は低下し、全ての顧客層を念頭に、オンライン証券取引サービスの低コスト化と利便性の向上が求められていくのであろう。