特集1:コロナ禍で変容するリテール証券ビジネス

コロナ禍を契機に個人投資家のオンライン投資が拡大するASEAN

北野 陽平

要約

  1. ASEAN域内では昨今、新型コロナウイルスの感染拡大を契機として、個人投資家による株式や投資信託等へのオンライン投資が拡大している。世界経済見通しの悪化により、2020年始以降、ASEAN主要国の株式市場が大幅に下落し、株価の割安感が高まったことで、株式市場に参加する個人投資家が増加している。また、グローバル金融・資本市場のボラティリティが高まるとともに、市場の先行き不透明が広がる中、分散投資の機会を追求する投資家の増加も見られる。
  2. シンガポールでは、コロナ禍の影響による外出自粛や現金に対する衛生上の懸念の高まり等を要因として、消費者がオンラインでの金融取引を行う傾向が強まる中、大手銀行によるオンラインでの投資商品・サービスの提供が拡大している。また、投資家の投資目的やリスク許容度等に基づいて分散されたポートフォリオを提供するロボアドバイザーを通じた投資も拡大している。
  3. 他のASEAN主要国においても、デジタル活用の動きが広がっている。マレーシアでは、オンライン取引を含む個人投資家の売買代金が増加していることに加えて、ロボアドバイザーを含むデジタル・プラットフォームを通じた投資商品・サービスの提供を促す環境整備が進んでいる。タイの株式市場でも、オンライン取引の口座数及び売買代金が増加傾向にある。インドネシアでは、オンライン投資信託販売プラットフォームを通じた取引が拡大している。
  4. ASEAN域内では、総じて伝統的な金融セクターが十分に発展しているとは言い難い状況である。そのため、有人店舗や旧来型システム等のレガシーが少なく、中長期的にデジタル金融サービスの普及を加速させるポテンシャルが大きいと考えられる。今後、金融商品・サービスに関する投資家の理解向上と適切な投資家保護を前提としつつ、投資家にとって利便性が高いデジタル金融サービスの提供が促進されることを通じて、資本市場の持続的な発展につながるか注目されよう。