特集2:拡大するプライベート・マーケット投資

米国株式市場の競争を促すOTCマーケット

岡田 功太、片寄 直紀

要約

  1. OTCマーケッツ・グループは、1904年から続くピンクシートを出自とする米国最大級の非上場株式市場を運営する会社である。同社が運営するOTCマーケットは、証券取引所上場へのステップアップ市場であるとともに、上場廃止になった銘柄の受け皿でもあり、米国の株式市場において極めて重要な存在になっている。
  2. OTCマーケットは、企業の開示や財務の状況等によって、OTCQX、OTCQB、ピンク・オープン・マーケットの3つの区分に分けられている。最も基準の高いOTCQXには、米国内の優良企業をはじめ、米国の投資家にアクセスしたいと考える海外の上場企業や、IR活動に積極的な米国の非上場地銀が登録されている。
  3. 米国では、連邦法に加えて各州の法令にも証券規制が存在し、州当局への登録や州法に則った情報開示や株式の勧誘を行う必要があるため、コンプライアンスの負担が大きい。OTCマーケットは、OTCQXとOTCQBについて州法の適用除外とするよう、州当局へ働きかけている。
  4. 今後の成長戦略として、OTCマーケッツ・グループは近年、企業のIR活動の場の提供や資金調達のサポート、投資家向けデューデリジェンス・ツールなどをオンラインで提供し、収益の拡大を図っている。また、米国外企業の誘致や海外への事業展開も積極化している。
  5. OTCマーケッツ・グループは、上場市場に代わる株式流通等の選択肢を提供することで、証券取引所との垂直的な競争を生み出している。また、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で対面でのやり取りが限定的になる中、証券サービスのデジタル化を図っており、日本の株式市場や証券会社にとっても注目すべき存在であろう。