金融・証券規制

コロナ禍に対応するマクロプルーデンス政策
-アフター・コロナの政策運営を見据えて-

小立 敬

要約

  1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(コロナ禍)は、2008年のリーマン・ショックを超えるとされる甚大な世界的経済・社会の危機をもたらした。各国政府はCOVID-19への対応として、金融政策や財政政策に加えて、金融システムの安定を目的とするマクロプルーデンス政策に関わる措置も含め、政策を総動員して対応に当たっている。
  2. COVID-19以前は、世界的に緩和的な金融環境であり、金融システムに循環的なリスクが懸念されていたため、各国のマクロプルーデンス政策は全体的に引締め方向で運営されていた。欧州では、バーゼルIIIで導入された代表的なマクロプルーデンス・ツールであるカウンターシクリカル・バッファー(CCyB)が2019年には11カ国で使われており、2020年から利用することを決定した3カ国を加えると、COVID-19以前は14カ国がCCyBを発動していた。
  3. COVID-19のパンデミックは、実体経済だけでなく金融・資本市場にも大きなショックをもたらした。もっとも、世界各国の金融システムは、金融危機以降の金融規制改革の結果として、強靭性を保ちながら実体経済に対するファイナンスを維持していると評価されている。各国の政府・中央銀行は、金融システムを幅広く支える様々な施策を講じており、その中には、CCyBや流動性カバレッジ比率(LCR)といったバーゼルIIIの自己資本・流動性規制で認められたフレキシビリティ、すなわちストレス時の緩和措置も採られている。
  4. 日本は、当面の間はCOVID-19がもたらす困難な経済・社会危機への対応に集中することが求められよう。もっとも、COVID-19への対応としてCCyBが果たしている機能を踏まえれば、アフター・コロナのマクロプルーデンス政策として、CCyBを含む金融規制・監督上のマクロプルーデンス措置のあり方について、今後、改めて整理することが重要であろう。