金融イノベーション

米国のFedAccount構想とCBDCを巡る動き

淵田 康之

要約

  1. 2019年にはリブラ構想を契機にCBDC(Central Bank Digital Currency、中央銀行デジタル通貨)への関心が高まったが、2020年に入ると新型コロナウイルス感染拡大(以下コロナ禍)を背景に一段とCBDCの重要性が認識されるようになっている。対面での現金決済からキャッシュレス決済にシフトする必要性、また幅広い国民に対して迅速に支援金を支払う仕組みの必要性が認識されたからである。
  2. 金融政策が限界に近づき、財政政策のさらなる拡大にも慎重さが求められるなか、事前に設定したマクロ変数の変化をトリガーとし、景気後退の兆候が生じる初期の段階で、機動的に個人に支援金を給付するといった、ルールベースの経済政策の有効性が注目されている。CBDCは、こうした政策を円滑に実施するためのツールともなりうる。
  3. 米国でも、民主党がコロナ禍を踏まえ、FedAccountという米国版CBDCの導入を提唱している。現状、デジタル・ペイメントが、銀行預金を含む「プライベートマネー」のみに依存している状態を正し、デジタルな「パブリックマネー」を導入することで、様々なメリットが実現する。
  4. わが国では、今後、各種の改革により、民間デジタルマネーが中銀マネーに近接しうるとし、民業圧迫ともなりかねないCBDCの導入には慎重な姿勢が示されている。しかし諸外国は、民間デジタルマネーの諸改革を既に実現させた上で、なおかつCBDCの必要性を認識しつつあるのである。
  5. 米国においてもCBDC導入論が台頭するようになったこと、また今回BIS(国際決済銀行)が、パンデミックの経験も踏まえ、民間デジタルマネーの問題点を指摘し、CBDC導入の意義を強調していることを、わが国の関係者も真剣に受け止める必要があろう。