金融イノベーション

中国人民銀行が進める「デジタル人民元」発行計画の概要と展望

関根 栄一

要約

  1. 現在、市場関係者の間で、中央銀行デジタル通貨(CBDC)への関心が高まっている。特に、世界第2位の経済大国である中国の中国人民銀行が2019年7月にデジタル人民元の発行計画を正式に表明したことは大きな話題となっている。
  2. デジタル人民元は、(1)現金(硬貨・紙幣)と全く同じで、単にデジタル(電子媒体)化の形態を採っている、(2)利息は発生しない、(3)中国人民銀行は商業銀行等とデジタル通貨を交換し、銀行等が利用者(家計・企業)とデジタル通貨を再交換する二階層の運営体系を採用する、(4)利用者は、スマートフォン上でデジタル人民元をウォレット形式で保有してさえいれば、(専用の端末機を用いることなく)オフラインでも移転(支払い)が可能となる、といった特徴がある。中国人民銀行は、中国国内での小売り決済に用いるためにデジタル通貨の開発を進めてきており、既存の国内の金融仲介システムへの影響を最小限にした制度設計を行っている。
  3. デジタル人民元を利用者から見た場合、(1)既存の第三者決済(アリペイ等)と異なり、預金口座を保有せずとも現金と同様に使え、小売り加盟店のコスト(手数料、回収期間)が軽減できる、(2)インターネット環境がなくとも利用できる、(3)大規模災害時の停電発生・通信手段が遮断された状態でも利用できる、といったメリットがある。
  4. 中国人民銀行は、2014年からデジタル通貨の研究を始めているが、米フェイスブックのリブラ構想への警戒感から検討が加速したと見られる。将来、デジタル人民元が国際決済にまで用いられるかは、資本移動の自由化をどこまで許容するか次第である。
  5. デジタル人民元は、現金に直接、手を触れなくて済む新型コロナウイルス感染症対策として、導入時期が早まる可能性がある。今後、香港に隣接する深圳市、長江デルタ地域の中心地の一つである江蘇省蘇州市、首都・北京市に隣接するイノベーションの拠点として新設した河北省・雄安新区、内陸部の拠点都市である四川省・成都市、2022年北京冬季五輪関連シーンで行われる実証実験の動きが注目される。