金融イノベーション

中国プラットフォーマーと海外資産運用会社の異業種間提携と展望
-ウィズコロナの下でのオンライン型投資顧問業務の試み-

関根 栄一、宋 良也

要約

  1. 中国の大手プラットフォーマーであるアント・フィナンシャルと米国の資産運用大手バンガードは、中国初の合弁投資顧問会社を設立し、2020年3月26日、公募ファンドに関するオンライン上での運用助言サービスを開始した。両社の提携は、中国のITプラットフォーマーと海外の資産運用会社との異業種提携という意味で、画期的なものである。また、米ブラックロックがテンセントと業務提携に関する交渉をしていたことも報じられている。
  2. 海外資産運用会社にとって、提携の主な目的は、(1)中国プラットフォーマーが持つ大規模なユーザー層へのアクセスと、(2)プラットフォーマーのIT技術基盤へのアクセスと考えられる。
  3. アント・フィナンシャルやテンセントは、これまで証券・資産運用業への参入を試みていたが、両社とも証券会社の買収には失敗していた。公募ファンドの運用に関しては、アント・フィナンシャルは天弘基金の51%の株式を取得し、余額宝MMFの運用をしてきたほか、両社とも基金販売ライセンスを持つ独立系基金代理販売会社を買収し、自社のプラットフォームで公募ファンド代理販売を実現させた。両社ともMMF以外の資産運用商品の提供に大きな関心を持っており、海外資産運用会社の経験や商品・サービスの導入を狙っているものと考えられる。
  4. 中国の資産運用市場は世界有数の規模になっているものの、個人金融資産の中心は依然として預貯金である。ウィズコロナの下、オンラインによる投資・資産形成が普及するとみられる中、アント・フィナンシャルとバンガードの提携がどのような展開を見せるのかが注目される。また、この提携は、海外資産運用会社による中国市場への新たな参入ルートを開いた形であり、業界の競争促進にもつながろう。今後はさらに海外運用商品に対する規制緩和が進んでいくかが注目される。