中国・アジア

中国は「財政赤字の貨幣化」を実施すべきか
-支持を得られていないMMTに基づいた政策提案-

関 志雄

要約

  1. 財政赤字の貨幣化は、世界各国では禁じ手とみなされ、その正当性を主張する現代貨幣理論(MMT)も学界では非主流派の地位に甘んじている。しかし、2008年のリーマンショック以来、主要国が中央銀行による国債の大量購入を通じて流動性を提供する量的緩和策など、それに準じる政策を実施してきたことを背景に、財政赤字の貨幣化に対する評価を見直す機運が高まっており、MMTも脚光を浴びるようになった。
  2. 中国では、2020年4月下旬に、財政部財政科学研究院の劉尚希院長が、コロナショックへの経済対策の一環として、政府が5兆元程度の特別国債を発行し、無利子で中央銀行に引き受けてもらうという形で財政赤字の貨幣化を実施すべきだと提案した。しかし、多くの経済学者は、インフレの高騰と資産バブルの膨張への懸念などを理由にこれに反対を表明しており、また財政赤字の貨幣化を、あくまでも従来の財政政策と金融政策のあらゆる手段がすでに出尽くした非常事態における最後の手段としてとらえている。
  3. 劉院長の提案は、2020年5月22日に開幕した全国人民代表大会を控えた時期に話題になり、その経済政策への影響も注目されたが、政府に採用されなかった。中国では、新型コロナウイルス感染症の収束を受けて経済が回復に向かっていることを考えれば、今後、財政赤字の貨幣化が実施される可能性は、ますます低くなると見られる。