中国・アジア

ウェルス・マネジメント事業を強化するシンガポールのDBS銀行

北野 陽平、植田 剛将

要約

  1. シンガポールを本拠とする東南アジア最大手銀行であるDBS銀行(以下、DBS)は、マス富裕層及び富裕層向けに資産運用サービスを提供するウェルス・マネジメント事業(以下、WM事業)を成長のけん引役として、業績を拡大している。WM事業の収入は2009年から2019年にかけて6倍超に増加するとともに、WM事業の収入が総収入に占める割合は同期間に7%から21%へと上昇した。
  2. DBSがWM事業を拡大してきた主な要因として、第一に海外展開が挙げられる。DBSは、事業拡大に当たり、M&Aも活用する方針を掲げており、その一環として、オーストラリア・ニュージーランド銀行のシンガポール、香港、中国本土、台湾、インドネシアにおけるリテール・バンキング及びWM事業を買収した。また、DBSは、タイと中東地域も今後の重点市場として位置付けている。
  3. 第二に、積極的なデジタルの活用が挙げられる。アジアの富裕層の間では、プライベートバンクのデジタル・サービスへの期待が高まっている。そうした中、DBSは、ワンストップ型プラットフォームであるDBS iWealthの活用により、WM事業の新規顧客を効率的に獲得してきた。また、DBSは、デジタルの活用を通じて、リレーションシップ・マネージャー(RM)の生産性を向上させてきた。
  4. 今後、DBSのWM事業のさらなる成長を後押しする可能性がある中長期的な取り組みとして、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連商品・サービスの提供が挙げられる。背景には、アジアの富裕層の間で、ESG投資への関心が高まっていることがある。また、アジアでは、自身で富を築いた第1世代の富裕層から第2世代への資産・事業承継が進展する中、DBSのファミリーオフィス向け事業も注目される。
  5. 足下では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、顧客とRMとのデジタル・チャネルを通じたコミュニケーションの重要性が高まるとともに、市場の先行き不透明感の広がりを受けて、持続可能な投資ニーズも強まっている。そうした中、DBSのWM事業における取り組みは参考になり得る。