特集:地域金融機関の今後

金融包摂を促進する重要な役割を担うフィリピンの地域金融機関

北野 陽平、武井 悠輔

要約

  1. フィリピンは、堅調な経済成長を持続させ、より包摂的な発展を実現するべく、国民の幅広い金融包摂を推進している。同国において金融機関口座を保有する15歳以上人口の割合は2017年時点で32%で、地方では26%に留まり、多くの地方自治体では銀行が設置されていない。そのような中、フィリピン中央銀行(BSP)は、銀行サービスが提供されていない地方自治体の割合を2020年までに20%へと引き下げることを目指している。
  2. フィリピンの銀行は、ユニバーサルバンク、商業銀行、貯蓄銀行、農村銀行、協同組合銀行に分類される。このうち、農村銀行は、地方における金融包摂を促進する重要な役割を担うと期待されている。地方居住者の資金需要に対応するため、BSP主導で農村銀行のプレゼンス強化に向けた取り組みが進められてきた結果、農村銀行の店舗数は1999年末の1,778店から2019年9月末には3,048店となり、融資残高は同期間に3.6倍に増加した。
  3. 金融包摂の促進には決済サービスの利用拡大も課題となる中、全国レベルで国民による安価、効率的、安全、信頼性の高い決済を可能にする仕組みの構築を目指して、「国家リテール決済システム(NRPS)」が2015年に導入された。現状、NRPSは地方では普及が進んでおらず、農村銀行間の送金・決済システムも接続されていない。そうした中、ブロックチェーン技術の活用により、農村銀行間の直接送金や効率的な国際送金を可能にするプロジェクトが進められている。
  4. 農村銀行は、より安価で金融サービスを提供するためのテクノロジーの活用にも取り組み始めている。例えば、足下では、ITコスト及びオペレーションコストの削減等を目的として、クラウドベースの勘定系システムを導入する動きが見られる。地方では、ITの利用環境は都市部に比べ総じて遅れているものの、将来的には、都市部で始まっている金融サービスのデジタル化が広がっていく可能性もある。今後、フィリピンにおける地域金融機関のサービスが、どのような発展を遂げるのか注目される。