金融機関経営

米国で最も便利な銀行とは

淵田 康之

要約

  1. グローバル金融危機後、米国では国内リテール業務に強い金融機関のプレゼンスが高まっている。外資系金融機関のなかでも、カナダのトロント・ドミニオンバンク・グループ(TDバンク・グループ)傘下のTDバンクは、米国内でリテール業務に注力することで顕著な成長を遂げている。
  2. 各国の多くの金融機関は、世界の金融ビジネスの中心である米国市場に進出し、業務拡大を目指してきた。しかし今日、日系や欧州系の金融機関の多くは、過去の一時期に比べ、米国市場における存在感を低下させている。こうしたなかTDバンクは、「米国で最も便利な銀行」を掲げ、米国で最も成功した外資系銀行となったのである。
  3. 金融危機を経て、米国金融市場の重要性はむしろ高まった。プラスの金利が維持され、預金・貸出など正常な金融ビジネスが成り立つ、世界で数少ない市場の一つとなったからである。TDバンクは、やはり経済が底堅く推移し、また安定した金融システムを持つカナダをマザーマーケットとしつつ、米国でリテール金融業務を拡大することにより、グループ全体の企業価値向上に寄与している。
  4. TDバンク・グループは、TDアメリトレードを通じて、米国におけるリテール証券ビジネスでも存在感を示してきた。そして2019年、取引手数料ゼロ時代が到来すると、TDアメリトレードをチャールズ・シュワブに売却し、チャールズ・シュワブの大株主となった。
  5. わが国の主要金融機関においても、今後の成長のためには海外ビジネスの拡大が不可欠であるが、その成功には、国内の経済や金融システムの改善・改革が前提となろう。その上で、どれだけ多くの現地ユーザーに、真に必要とされる金融機関となれるかがカギとなろう。