金融機関経営

チャールズ・シュワブによるTDアメリトレードの買収
-米国個人向け金融サービス業界への示唆-

岡田 功太

要約

  1. チャールズ・シュワブは2019年11月、TDアメリトレードを買収することを公表した。本件は株式交換で行われ、買収額は約260億ドルに達する。買収完了後のチャールズ・シュワブの預かり資産は約5.1兆ドル、証券口座数は約2,400万口座に達する見込みである(単純合算ベース)。同社は、コスト削減と顧客基盤の強化を推進し、より効率的で大規模な個人向け金融サービス業を追求すると見られる。
  2. 今般の買収の背景として、(1)売買手数料無料化等により事業環境が急激に変化していること、(2)連邦準備制度理事会の利下げの影響によって金利収入が縮小し、更なる預かり資産の拡大の必要性が高まったこと、(3)チャールズ・シュワブが創業当初から掲げてきた経営哲学に基づく「好循環」の一層の強化と整合的であること、が挙げられる。
  3. 買収完了後のチャールズ・シュワブは、独立系ファイナンシャル・アドバイザーである投資顧問業者(RIA)から約2兆ドルの資産を預かることになり、これを契機にRIAの顧客化を巡る大手金融機関の競争が激化する可能性が高い。また、長年、チャールズ・シュワブ及びTDアメリトレードと競合関係にあるイー・トレードを中心に、ディスカウント・ブローカー業界の再編も注目されている。アドバイザリー・フィーの低下と、同サービスに組み入れられるミューチュアルファンド及びETFの低コスト化の可能性も指摘されている。
  4. 今般の買収は、ディスカウント・ブローカー及びRIA向けサービス事業におけるチャールズ・シュワブやフィデリティ・インベストメンツなど、一部の大手金融機関が、より一層巨大化する方向性を示唆しており、今後の動向は注視する必要がある。