アセットマネジメント

上場・非上場の垣根を飛び越えるクロスオーバー投資
-米国ミューチュアルファンドによるプレIPO株式投資の実状-

竹下 智

要約

  1. 上場企業を主な投資対象とするミューチュアルファンドやヘッジファンドによる非上場企業への投資は、上場/非上場の垣根を越えた投資という意味で「クロスオーバー投資」と呼ばれる。近年、米国では非上場企業への投資において、VC以外のミューチュアルファンドやヘッジファンド等の存在が大きくなってきている。特に、IPO前のウーバー・テクノロジーズには55本のミューチュアルファンドが投資を行っていたことが知られている。
  2. クロスオーバー投資家は、レイターステージでの大型の資金調達において主要な投資家の一つであるとともに、アーリーステージの投資家(含む従業員)に流動性を供給する役割を担っている。ミューチュアルファンドが非上場企業への投資を行う理由として、(1)IPOまで待っていると会社の成長サイクルの重要なステージを逃す可能性がある、(2)イノベーションや創造的破壊が起きている産業セクターの評価をするには上場企業および非上場企業の両方を見ておく必要がある、という点があげられる。
  3. 非上場株式は取引所での株価が存在しないため、運用会社毎に投資対象の時価評価を行っている。非上場企業には上場企業に課せられた情報開示等の義務がないため、投資家が独自で情報収集にあたらなければならず、経営状況の監視やバリエーションに費やす時間が必然的に上場企業の場合よりも多くなる。そのため、クロスオーバー投資は分析リソースが豊富な大規模ファンドに適している。
  4. 米国ミューチュアルファンドはすでに日本の非上場企業への投資を行っている。日本国内においても今後、イノベーションの促進、ベンチャー支援策の充実を図る上で、クロスオーバー投資の振興も重要な課題となるのではないか。