アセットマネジメント

米国における退職資産拡充策を巡る議論
-退職保障強化法案(SECURE法案)を中心に-

岡田 功太、中村 美江奈

要約

  1. 米国では、長寿化が進行する一方で、ソーシャル・セキュリティ(公的年金)の財政難等の課題がある。こうした中、連邦議会では、超党派の有力議員が、「全地域社会における退職保障強化法案」(通称SECURE法案)を提出した。同法案は、下院で既に可決されており、上院で審議待ちの状態である。
  2. SECURE法案は、2006年年金保護法以来、13年ぶりの本格的な年金制度改革である。2006年年金保護法は、401(k)プランの「自動化」の制度の整備等により、職域の確定拠出年金(DC)プランや個人退職勘定(IRA)の資産の積み立て(アキュミュレーション)促進に寄与した。SECURE法案は、退職プラン加入者のさらなる拡大と、引退後の資産の取り崩し(デキュミュレーション)局面における課題解消等を目指している。
  3. SECURE法案の主な特徴は、第一に、伝統的IRAの拠出年齢制限の廃止といった既存の退職資産形成制度の拡大の促進である。第二に、退職プランへの長期雇用パート従業員の加入促進や、中小企業従業員の退職プラン加入促進を意図した複数雇用主プラン(MEP)の要件緩和等の加入者拡大である。第三に、デキュミュレーションにおけるアニュイティ等の普及促進や、退職後の収入予測といったライフタイム・インカム確保の施策である。
  4. SECURE法案は超党派の支持を得ているものの、成立の可否やタイミングについては、政局次第である。他方、同法案の内容を念頭に、大手資産運用会社等は新たなソリューションの開発を推進している。つまり、SECURE法案は、既に米国リタイアメント市場において新たなダイナミズムを生み出しはじめており、法案の成否と併せて、今後の展開が注目される。