中国・アジア

中央銀行デジタル通貨の発行を目指す中国
-予想されるマクロ面での影響-

関 志雄

要約

  1. 中国では、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行は、構想から実行の段階に移ろうとしている。中国が導入しようとするCBDCは、だれでもアクセスでき、決済が仲介機関を経由しない「リテール・トークン型」である。その特徴は、(1)現金(M0)の代替、(2)中央銀行と利用者の間に商業銀行などの仲介機関が入る二層構造の運営体制、(3)特定の技術に限定しない、(4)無利子、(5)「制御可能な匿名性」に基づく個人情報の取り扱い、(6)オフライン決済が可能、である。
  2. 現段階の構想通りに、CBDCが無利子で、現金の代替にとどまる場合、その導入によってもたらされる金融政策と金融システムへの影響はそれほど大きくない。しかし、金利が付き、現金だけでなく銀行預金も代替の対象となるCBDCが発行される場合、金融政策の有効性は高まる一方で、金融システムにおける銀行の地盤沈下は加速しかねない。
  3. CBDCの発行は、人民元の利便性の向上を通じて、人民元の国際化に寄与すると期待されている。しかし、厳しい資本規制が維持され、CBDCもその対象になると予想される以上、その効果は限定的であろう。
  4. 中国は、CBDCを本格的に導入する最初の国になりそうである。それに向けて、綿密に構想を練っており、実行に移ってからも慎重な姿勢は変わらないと予想される。最終的に、中国において、現金が完全にCBDCに取って代わられ、キャッシュレス社会が実現されるだろうが、そこまでの道のりはまだ遠い。