特集1:新型コロナウイルス感染症とサステナビリティ

今次パンデミックにおいて求められる情報開示と投資家の対応

西山 賢吾

要約

  1. 新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミック(感染症の大流行)が勢いを増す中、企業は今回のパンデミックが短期、そして中長期の企業運営に与える影響について、株主、投資家や他のステークホルダーの予見可能性を高めるために、適切な説明や開示が求められる。
  2. 企業による適切な情報提供については、米国、英国、オーストラリアの企業開示関係主体によるガイダンスや声明が参考になると思われる。これらからは、企業は現在入手できる情報を利用して、今回のパンデミックの影響が与える影響について分析し、速やかに説明開示すること、現在の流動的な状況に応じて情報を随時更新し、見方に変化が生じれば、その時点で速やかに情報を提供することが重要との示唆が得られる。
  3. 一方、投資家、特に長期投資家の企業への対応については、PRI(責任投資原則)の公表した7つの投資家行動が参考になる。ここでは、企業の持続的成長に特に重きが置かれており、PRIに署名した投資家に対し、労働者の安全や財務安全性を守ることに失敗した企業や、役員報酬や短期の株主利益を優先する企業と対話(エンゲージメント)すること、投資家は、危機管理の状況にある企業とはCOVID-19(の影響)を対話の当面の主題とし、その優先順位を変えることなどが記されている。
  4. パンデミックはいわゆるROE基準など、機関投資家の議決権行使へ影響を与える可能性がある。これについて、複数の国内機関投資家の議決権行使担当者等に尋ねたところ、今回のパンデミックの影響を考慮することを検討するが、ROE基準などは複数の期間を見て判断する投資家が多く、現在のところ考慮対象になる事例はあまり多くない模様である。
  5. 今回のパンデミックは、特にESGのS(社会)課題において新たなリスクの所在が顕在化するとともに、企業、投資家等のステークホルダー双方に社会課題の重要性を再認識させる契機ともなるであろう。現状パンデミックの影響は拡大を続けており、企業にとって不確定な要因も今後さらに増えると考えられる。しかし、こうした状況でも、企業経営者は「パンデミック後」の世界を想定し、当該企業運営上のリスクや機会の所在の変化等について洞察し、持続的な企業価値向上への施策を検討していくことが肝要である。