特集1:新型コロナウイルス感染症とサステナビリティ

新型コロナウイルス(COVID-19)が及ぼす想定外の減損リスク
-求められるリスク情報の積極的な開示-

板津 直孝

要約

  1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、短期間で世界的に蔓延し、社会・経済ならびに金融資本市場に多大な影響を及ぼしている。今後、COVID-19を契機とした株式市場の急変動により顕在化しうる論点の一つとして、2019年の株価上昇基調の中で実施されたM&Aにおける買収価額の設定及び認識されたのれんの妥当性、さらには減損リスクが考えられる。
  2. 一般に株価上昇局面においては買収価額が高くなる傾向がある。のれんは、M&Aにおいて支払った買収金額と被買収企業の時価純資産価額との差額であるが、近年、日本企業による大型M&Aの増加とともにのれんの金額も多額になっていた。COVID-19の業績への影響等が引き金となり、のれんの減損リスクが生じる可能性が懸念される。
  3. 株高の環境でのM&Aにおいて、買収金額が過大となったことにより、のれんに含まれた過大支払相当額は、実務上のれんとして認識されてきた。しかし、本来的には買収企業の損失であり、のれんの一部を構成しない。過大な買収金額の一部がのれんに含まれていたことにより、思いがけず巨額な減損の認識に至るケースもありうる。
  4. COVID-19が企業業績に与える影響は不確実性が高いことから、リスク情報の開示を促すために、各国の規制当局等は、ガイドラインを相次いで公表している。のれんの規模が大きい企業は、想定外ののれんの減損リスクを懸念する機関投資家に対して、関連するリスク情報を積極的に開示する必要がある。