ESG/SDGs

ESGの社会(S)課題としての「ビジネスと人権」

西山 賢吾

要約

  1. 外務省総合外交政策局は2020年2月17日、「ビジネスと人権に関する行動計画に係る関係府省庁連絡会議」による「『ビジネスと人権』に関する行動計画原案(2020-2025)」を公表し、1か月間パブリックコメントを求めた。同行動計画は、パブリックコメントの内容を検討した後、2020年半ばにも成案が公表される予定である。
  2. 「『ビジネスと人権』に関する行動計画」は、2011年に国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」の普及や実施を目的に、すでに20か国以上で策定されている。ここでは、人権デュー・ディリジェンスと、責任ある企業行動を企図した苦情処理・問題解決メカニズムの構築が特に重要と考えられる。
  3. ESGに関し、これまではG(ガバナンス)、E(環境)と比較すると、S(社会)課題に対する日本の投資家や企業の意識は相対的に低かったように見える。しかし、「『ビジネスと人権』に関する行動計画」の策定を機に、投資家が企業に対し社会課題の重要項目として、人権に関する事項をエンゲージメントの対象としていくことが想定される。
  4. このような状況を鑑みれば、企業側の人権問題への対応も進むことが期待される。企業不祥事などの社会課題に関するリスクは短期的に顕現化し、企業価値の破壊につながる事例も見られる。このため、投資家にとって看過できないものである。
  5. 投資家にとっては、課題やリスクに企業が対応できている事例より、むしろ対応途上であるといった事例の方が関心は高くなる。リスクに対応済であれば、投資家にとってそれはリスク要因とはならないためである。投資家は、エンゲージメントを通じて把握した課題が当該企業の企業価値にとって真に重要かどうかを検討、評価しつつ社会課題を投資評価に織り込んでいくことになる。