金融・証券規制

COVID-19ショックとノンバンク金融仲介(NBFI)の発展
-金融システムの安定における市場流動性の課題-

小立 敬

要約

  1. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響から、金融市場は2020年3月に極度の流動性ストレスに陥った。銀行システムは健全性を維持しており、金融市場がショックを受けた背景には、ノンバンク金融仲介(NBFI)の発展が窺われる。
  2. NBFIは金融危機を経て拡大を続けている。NBFIは金融システムにおける信用仲介の役割を拡大し、銀行セクターとの間でバランスシートの相互連関性を増大させ、金融システムにおける重要性を高めている。NBFIの発展に加えて、金融危機後の金融規制改革や市場主導のビジネスモデルの変化、金融テクノロジーの進化、米ドルの資金調達環境の変化を背景として金融システムの構造変化が進展しており、金融仲介や金融市場の機能に加えて、金融システムの強靭性にも影響が生じている。
  3. こうした中でCOVID-19によって市場流動性リスクが顕在化し、市場参加者がキャッシュの確保に走るダッシュ・フォー・キャッシュの状況が生じた。企業の資金繰りはタイト化し、米ドルの流動性は不足し、MMFでは大規模な資金シフトが生じ、一部の投資ファンドでは金融危機時を上回る規模の償還が発生した。多くの証券市場ではディーラーが仲介能力を低下させることになった。これに対して中央銀行は、金融危機時を上回る規模と迅速性によって金融システムに流動性支援を行い、極度の流動性ストレスに対応することとなった。
  4. 金融システムの構造変化が進展している中、COVID-19によって金融システムの安定の焦点が銀行セクターからNBFIに移り、金融システムの強靭性の中心的な課題が銀行セクターの損失吸収力から市場流動性に移りつつあることが明らかになった。今後、市場流動性に焦点を当てながらプルーデンス政策を再検証することが求められる。