金融・証券規制

英国における成長資本供給の拡大策
-IPO市場の活性化やDCスキームの活用をめぐる議論-

磯部 昌吾、中村 美江奈

要約

  1. ブレグジット(英国の欧州連合(EU)離脱)に伴うEUとの貿易協力協定交渉の決着を得た現在、英国では今後の経済成長を担う成長資本供給の在り方を巡る検討が相次いでいる。
  2. 背景には、ロンドン証券取引所における新規上場の低迷や有力なテクノロジー企業が育っていないという実状、更には新型コロナウイルス禍(コロナ禍)による成長資本供給の不足が懸念されていることがある。
  3. こうした中で、英国財務省は、(1)新規上場の拡大を目指した上場制度のレビュー(UK listingレビュー)、(2)長期資産投資の促進を目的とした新たなファンド形態(長期資産ファンド(LTAF))の立ち上げ、(3)フィンテック企業の成長を支援する独立フィンテック戦略レビューを通じて成長資本供給における制度面での課題を洗い出そうとしている。
  4. とりわけ、英国財務省を含む英国政策当局は、英国において拡大する確定拠出型年金(DC)スキームが、成長資本の供給源となることへの期待を高めている。既に官民の取り組みがあるところ、英国政策当局は、DCスキーム規制の見直しや、DCスキームを含む個人投資家による幅広いプライベート市場投資を可能にするLTAFの導入の検討等を行っている。
  5. コロナ禍によって進む英国企業の構造変化を成長資本供給によって後押しできるかは、英国の経済成長にとって重要なポイントとなるだろう。EUに束縛されない制度設計の柔軟性と機動性を得た英国がどのように有効な施策を実行できるのか、今後も注目といえよう。