コーポレート・ファイナンス

上場ファンドを通じた非上場企業への資金供給
-米国BDCと英国VCTの事例-

神山 哲也

要約

  1. 日本では2020年秋頃から、非上場株式市場の活性化を巡る議論が盛んになっている。その中で、上場投資ファンドを通じた非上場市場投資は、ハイリスク・ハイリターンでありながらも、個人投資家にプロの目利きと分散投資機会を提供するものとして期待される。
  2. 海外の事例としては、まず、米国の事業開発会社(BDC)がある。BDCは、非上場銘柄もしくは小型上場株に投資するクローズドエンド・ファンドであり、基本的には上場している。実態としては、レバレッジを多用するハイイールド債ファンドであり、投資対象企業への経営支援の機会提供も義務付けられる。
  3. また、英国のベンチャー・キャピタル・トラスト(VCT)は、AIM銘柄を含む英国の非上場企業の証券に投資するクローズドエンドの上場ファンドであり、個人向けの税優遇措置を特徴とする。VCT株式の新規発行時に投資して5年保有すれば投資額の30%を所得税還付されることに加え、主たるリターンの源泉である配当も非課税となる。
  4. 日本における上場ファンドを通じた非上場市場投資の機会拡大という観点では、日本取引所グループのベンチャーファンド市場の見直しなどが議論されており、米国・英国の事例は大いに参考になる。その際、英国VCTの税優遇措置も、個人投資家から中小企業への成長資金供給という意味では検討に値しよう。