アセットマネジメント

米国におけるファンドのデリバティブ取引に関する規制改革

岡田 功太

要約

  1. 米国証券取引委員会(SEC)は2020年10月に、ファンドのデリバティブ取引に関する規則(デリバティブ取引規則)を採択した。デリバティブ取引規則は、個人投資家が負うレバレッジ・リスクを軽減しつつ、ファンドのデリバティブ取引に係る規制枠組みを簡素化し、ファンドによるデリバティブ取引の利用を促進するものである。
  2. デリバティブ取引規則は、ファンドに対して、(1)デリバティブ・リスク管理者(ファンドの投資顧問業者の執行役員等)によるデリバティブ・リスク管理プログラムの運営、(2)VaRに基づくレバレッジ・リスク制限の要件遵守を義務付けている。また、限定的デリバティブ利用者(デリバティブ・エクスポージャーが純資産の10%未満のファンド)に対しては、規制対応負担を軽減しつつ、ヘッジ目的のデリバティブ取引の利用を促進するべく、上記の(1)及び(2)の適用を免除している。
  3. SECが2019年11月に公表したデリバティブ取引規則の原案では、レバレッジド/インバース・ファンドについて、特有のリスクが伴うことを踏まえて、同ファンドの販売規制が提案された。しかし、市場参加者による批判が殺到したことを受けて、最終規則では販売規制の導入は見送られた。その上でSECは2020年10月に、レバレッジド/インバース・ファンドだけではなく、上場投資証券(ETN)も含む複雑な金融商品に関する声明を発出し、改めて市場参加者の意見を募り始めた。
  4. デリバティブ取引を活用した公募投信は、日本の個人投資家にも広く販売されている。そうした中、日本においても、個人投資家が負うレバレッジ・リスクの軽減策に関する議論もあり得よう。米国におけるファンドのデリバティブ取引に係る議論は、日本の資産運用業界にとっても示唆に富むものであろう。