金融イノベーション

シンガポールで拡大するセキュリティトークン市場

北野 陽平

要約

  1. シンガポールでは昨今、ブロックチェーン技術を活用して発行・流通が行われる資本市場商品であるセキュリティトークンの市場が拡大しつつある。背景には、シンガポール金融管理局(MAS)が2017年にデジタルトークンの募集に関するガイドラインを公表したことにより、セキュリティトークンの発行・流通に関する制度的枠組みが明確化されていることや、MASが金融セクターにおけるブロックチェーン技術の活用を推進及び支援していることがある。
  2. セキュリティトークンの発行・流通に携わる金融事業者は、従来型の資本市場商品を取り扱う事業者と同様に、証券先物法等の下で、業務内容に応じた認可をMASから取得する必要がある。認可取得に当たり、革新的な金融商品・サービスを限られた範囲及び期間で実験するための規制枠組みであるレギュラトリー・サンドボックスが利用されることが多い。同枠組みの下での実験を通じてセキュリティトークンの発行・流通に携わる主なプラットフォームとして、iSTOXやHg Exchange等が挙げられる。
  3. シンガポールでは、取引所や伝統的金融機関のセキュリティトークン分野への参入の動きも活性化しつつある。シンガポール取引所(SGX)は、既存業務の効率性向上を目的として、ブロックチェーン技術の活用に積極的に取り組んでおり、2020年9月にブロックチェーン・プラットフォーム上での社債トークンの試験的発行を完了したことを発表した。また、ASEAN最大規模を誇るシンガポールのDBS銀行は2020年12月、SGXとの合弁事業として、セキュリティトークン及び仮想通貨を取り扱うDBS Digital Exchangeを開始すると発表した。
  4. シンガポールでのセキュリティトークンの発行・流通は、まだ緒に就いたばかりであるが、日本を含むアジア域内で先駆者となるポテンシャルを有していると考えられる。今後、シンガポールが、セキュリティトークンの発行・流通市場としての存在感を高め、アジアを代表するグローバル金融センターとしての地位向上につなげることができるか注目される。