特集1:株式市場の構造的変革

GameStop株を巡る騒動が提起した米国株式市場の課題

淵田 康之

要約

  1. 2020年後半より、米国市場において、ヘッジファンドによるショート・ポジションが目立ったGameStopなどの銘柄に対し、個人投資家らがSNSで呼び掛け合い、買い注文を集中させる動きが活発化した。2021年1月にはGameStop株の急騰により、一部のヘッジファンドが大幅な損失を被った。その後も、同様の動きが続いている。
  2. 近年米国では、主にスマートフォンを通じた手数料無料の取引サービスを提供する、Robinhoodなどの証券会社が台頭し、若い世代の投資家が急増していた。今回の騒動は、こうしたRobinhooderとも呼ばれる新たな投資家層が、ヘッジファンドを打ち負かすような影響力を持つことを示した事例として反響を呼んだ。
  3. しかしこれら個人投資家の買い注文は、基本的に証券取引所ではなく、Citadelなど一握りの巨大マーケットメーカーが売り向かうことで執行されている。証券会社は、彼らに注文回送することでリベートを得られるからである。個人投資家にとっては、手数料が無料としても、執行価格を考慮するとかえって不利になっている可能性も指摘される。
  4. 今回の騒動は、こうした最良執行のあり方や市場分裂の問題、さらには、空売り、相場操縦、証券決済期間の短縮化など、米国市場で過去から議論となってきた様々な論点を、改めて浮き彫りにする形となっている。
  5. 同時に、証券取引アプリにおけるゲーミフィケーション、すなわちアプリが過剰な取引を煽るような仕様となっているのではないかといった問題など、新たな論点への対応も迫るものとなっている。