コーポレート・ファイナンス

新型コロナウイルス感染症と社債発行の拡大

富永 健司

要約

  1. 新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、実体経済に深刻な影響を及ぼすと共に、国内金融市場に混乱をもたらした。しかし、政府・日本銀行により、過去の金融危機時等の教訓を踏まえた迅速かつ積極的な対応が実施された結果、金融市場は比較的短期間で落ち着きを取り戻している。例えば、社債市場において、企業は比較的順調に資金確保を進めており、2020年における社債の発行額は過去最高の約16兆円となった。
  2. 社債市場におけるこうした円滑な資金調達には、1980年代頃から進められてきた発行自由化に係る制度整備、市場活性化に関する取り組みも寄与していると考えられる。社債市場においては、1980~1990年代に発行自由化に係る制度が整備され、2000年代において発行市場及び流通市場における市場の活性化に向けた取り組みが進められている。
  3. 新型コロナウイルス感染症の感染が拡大する中、企業は社債市場における資金繰りの備えを進めると共に、調達年限の多様化及びグリーンボンド・ソーシャルボンド・サステナビリティボンド等の調達資金が持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する事業に充当されるSDGs債の発行等の取り組みを継続している。
  4. 今後、新型コロナウイルス感染症の問題を踏まえた企業による社債市場における資金繰りの対応が進むと共に、社債の発行市場及び流通市場における活性化の取り組みが継続されていくことで、社債市場の持続的な拡大につながるのか注目されよう。