個人マーケット

上場株式等の相続税評価:英国・米国との比較
-株価下落時の措置とISA/IRA資産の相続を中心に-

宮本 佐知子、橋口 達

要約

  1. 超高齢社会となったわが国では、相続を経験する人も増えており、相続で取得した財産に上場株式が含まれる事例も増えている。相続財産に含まれる上場株式の価額を評価するには、市場取引価格である株価を参照することになるが、現実には株価は日々変化しており、急変動も珍しいものではない。
  2. 本稿では、英国及び米国において、上場株式の相続税評価はどうなっているのか、株価下落時にはどのような措置があるのかに焦点を当てて検討したい。これらの国では、家計の上場株式保有が普及しており、それを所与とした関連制度整備には一日の長があるため、わが国にとって考慮に値するルールも多いと考えられる。
  3. 英国及び米国の制度において、上場株式の相続税評価に係る措置として注目される点は、(1)被相続人の死亡日以降に株価が下落した場合、上場株式の評価軽減措置があること、(2)被相続人の個人貯蓄口座(ISA)や個人退職勘定(IRA)の資産を、税制優遇が付されたまま配偶者が相続できること、(3)贈与された上場株式の株価が下落した場合、相続時に評価軽減措置があること、(4)相続税の基礎控除額が高いこと、などが指摘できる。
  4. 英国及び米国の相続税制は、わが国とは異なる建て方の制度であるものの、予見できない急な財産価格の下落や、突然の不幸に伴う生活設計の狂いへの配慮は、参考になる。わが国における上場株式等の相続税評価については、英国及び米国の制度を参考に、納税者の担税力や納得感に配慮した制度にしていくことが望まれよう。