金融イノベーション

タイ資本市場における公的部門主導のブロックチェーン活用
-政府貯蓄債券の販売や規制の整備を中心に-

北野 陽平

要約

  1. タイの金融規制当局及び証券取引所は近年、資本市場におけるブロックチェーン技術の活用促進に向けた取り組みを強化している。債券や株式等の資本市場商品の発行・流通における効率性及び透明性を向上させ、資金調達や投資を促すことにより、資本市場のさらなる発展につなげることを目的としたものである。
  2. タイ中央銀行は2018年初頭、国民の貯蓄促進等を目的とした個人投資家向け金融商品である政府貯蓄債券の販売プロセスにブロックチェーン技術を活用する概念実証を開始し、2020年9月に実用化を成功させたと発表した。この結果、新発の政府貯蓄債券の約定日から投資家が受け取るまでの期間は、以前の15日から2日へと短縮された。また、一定額以上の政府貯蓄債券を購入したい投資家は、以前まで複数の銀行で口座開設し、申し込む必要があったが、1つの銀行を通じて上限まで購入することが可能となった。
  3. タイでは2017年頃から、国内企業の代替的な資金調達手法として、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)への関心が高まり始めた。しかし、ICOに対する明確な規制が不在の中、デジタルトークン及び仮想通貨から構成されるデジタル資産の発行・流通に関する緊急勅令が2018年5月に制定された。タイ証券取引委員会は当該勅令を踏まえて、投資家保護の強化やICO認可プロセスの効率化といった観点から、デジタル資産の発行・流通に携わる金融事業者に対する規制を整備している。
  4. タイ証券取引所は、資本市場のステークホルダーと連携し、デジタル資産向けのプラットフォームの構築を進めており、デジタルトークンの発行・流通を2021年末までに実現することを目指している。今後もこうした取り組みが推進されることにより、企業の資金調達手法の拡充や投資家層の裾野拡大を通じて、タイ資本市場のより一層の発展につながることが期待される。