特集1:中銀デジタル通貨の実現に向けて

「一生ものの口座」としての公金受取口座構想とCBDCへの示唆

淵田 康之

要約

  1. 特別定額給付金の支給を巡る混乱を踏まえ、公金受取用の口座を国民が予め国に登録する、「公金受取口座」という制度の導入に向けた準備が進められている。高市前総務大臣は、同口座を、国民への様々な公的支払いの受け皿として活用できる、「一生ものの口座」としていく意欲を示した。
  2. 現状、公金受取口座として、銀行口座を登録することが想定されている。しかし転居や転職などによる取引銀行の変更や、銀行の統合や支店の統廃合が生じる度に登録口座情報を変更しなければならないようでは、「一生ものの口座」とは言い難い。
  3. 特定の銀行の口座を公金受取口座として登録することが、公正な競争やイノベーションの抑制につながる懸念もある。そこで特定の銀行口座に依存しない姿が望ましい。
  4. 公的な支援の形態としては、ポイント付与も広く活用されている。この場合、銀行口座を利用する必要はない。マイナポイントや自治体ポイントの仕組みを参考に、全国民が「公的ポイント口座」を通じて、公的支援を享受する姿も考えられる。
  5. 国民一人一人に、公金受取用の日銀口座を「一生ものの口座」として付与し、国民が同口座の資金を様々な銀行や決済系FinTechを通じて利用できるようにすることも考えられる。いわば、公金受取限定CBDC(中央銀行デジタル通貨、Central Bank Digital Currency)の導入である。社会的ニーズの高さを考えると、リテールCBDCの全面導入の前段階として、先行して実現を目指す意義があると思われる。