特集1:中銀デジタル通貨の実現に向けて

「デジタル人民元」の中国国内での初の市民参加型実験の概要
―深圳市・蘇州市に加え、北京冬季五輪での実験も始動―

関根 栄一

要約

  1. 2020年10月、中国南部に位置する深圳市政府は、中国人民銀行と協力し、消費刺激策を兼ね、深圳市居住者に対し、一人当たり200元、計5万人(合計1,000万元)を抽選方式で配布するデジタル人民元の実証実験を実施した。中国国内での公開実験は、今回が初めてである。
  2. デジタル人民元の深圳市での配布実験は、(1)2020年10月9日(金)0時から11日(日)9時までの応募受付・審査期間、(2)2020年10月12日(月)18時から18日(日)までの配布開始・実験期間、の二段階に分けて行われた。応募登録完了者は合計191万3,847万人、抽選を経た当選者は4万7,573人で、2019年末時点の深圳市の常住人口1,343.88万人の0.35%に相当する。
  3. デジタル人民元は、「デジタル人民元アプリ」を通じて当選者に配分されるが、アリペイやWechat Payと異なり、配布を行う参加銀行に利用者の口座が開設されていなくてもよい。配布されたデジタル人民元は、事前に指定された深圳市羅湖区内の3,389店舗で利用でき、使用データ(取引金額876.4万元)は一種のビッグデータとして収集され、未使用分は、有効期間終了後、回収された。
  4. 続いて、2020年12月には、中国の華東地区に位置する江蘇省・蘇州市でも、12月12日のオフライン・セールスに合わせて、第2回目の国内公開実験が行われた。蘇州市の実験では、(1)オフラインの実店舗だけでなく、オンラインモール(京東商場)でも実験が行われたこと、(2)携帯電話ネットワークが無い状態でのデジタル人民元の移転機能の実験が行われたことが特徴である。2022年2月に開催される北京冬季五輪向けの実証実験では、首都北京の第二空港である大興空港と北京市内とを結ぶ地下鉄乗車券の購入時や、携帯電話以外にウェアラブル・ウォレットでも使えるようにする予定である。
  5. 今後は、商業銀行経由で配布した利用者の末端での決済にブロックチェーンを使っていることによる処理能力問題の解決、法定通貨としてのデジタル人民元の法整備が課題となっている。また、香港市場では、デジタル人民元の越境決済に向けた技術的準備が始まろうとしている。「e-CNY」というニックネームの定着も含め、中国のデジタル人民元の導入動向が引き続き注目される。