コーポレート・ファイナンス

変貌を遂げる米国のIPO
―SPAC及びダイレクト・リスティング―

神山 哲也、岡田 功太

要約

  1. 米国では特別目的買収会社(SPAC)のIPOが急増している。2020年の米国IPO市場に占めるSPACの比率は、案件数・調達金額で半分ほどに達している。SPACは、IPOを通じて資金調達し、IPO後に特定される未公開の企業・事業の買収に当該資金を用いることを目的とした株式会社の一種である。
  2. しかし、SPACとの合併を公表した電動トラック・メーカーのニコラによる虚偽開示の可能性が指摘されたことを契機に、米証券取引委員会(SEC)はスポンサー持分への監視強化の姿勢を示している。スポンサーは、買収が実現すれば自身の持分の価値上昇が見込めるため、ディールを遂行する強力なインセンティブを有しているためである。
  3. 米国のIPO市場においては、既存株主による旧株の売却のみを目的としたダイレクト・リスティングによる上場事例も散見される。スポティファイ、スラック、パランティア、Asana等のユニコーン企業が、相次いで、ダイレクト・リスティングを実施している。
  4. 更に、米国の証券取引所は、プライマリー・ダイレクト・リスティングの実現を目指している。これは、引受人を介さずに、発行体自らが新株を売り出す上場手法である。しかし、ダイレクト・リスティング及びプライマリー・ダイレクト・リスティングにおいては、十分な投資家保護が担保されているのか、議論の余地がある。
  5. SPAC及びダイレクト・リスティングは、米国の非上場市場の発展によってユニコーン企業が誕生し、伝統的なIPO件数が減少するという市場構造の変化の中で台頭している。今後、日本において非上場市場の環境整備が行われた後、SPACやダイレクト・リスティングのような上場手法の多様化へのニーズが生じる可能性も考えられ、その際、米国の事例は一つの先行事例となろう。