コーポレート・ファイナンス

米国の私募市場の発展を支える包括的な制度改革

岡田 功太

要約

  1. 証券取引委員会(SEC)は2020年11月に、登録免除募集に係る規則(エグゼンプト・オファリング規則)を採択した。これは、日本の制度に即していえば、私募制度の拡充を図ったものであり、レギュレーションD、レギュレーションA、レギュレーション・クラウドファンディング(レギュレーションCF)を包括的に見直し、改正するものである。
  2. エグゼンプト・オファリング規則は、高い投資家保護の水準を保持しながらも、スタートアップ企業や中小企業等の資本形成の促進を目的としており、レギュレーションCF及びレギュレーションDルール504の年間調達上限額を引き上げ、レギュレーションAティアIIについては年間調達上限額だけではなく、発行済み証券の転売上限額も引き上げた。
  3. また、エグゼンプト・オファリング規則は、投資家及び発行体間のコミュニケーションを促進すべく、大学やアクセラレーター等によるデモ・デーや、登録免除募集の実施を検討する発行体によるテスト・ザ・ウォーターにおいて一般的勧誘規制を免除する要件を明確化した。更に、エグゼンプト・オファリング規則は、同一の発行体が、ほぼ同時期に実施する複数の募集を、単一の募集とみなす通算ルールの要件を明確化した。これにより、スタートアップ企業や中小企業等が、短期間に複数回にわたって資金調達をすることを促した。
  4. エグゼンプト・オファリング規則は、過去50年間に渡って、度々改正されてきた登録免除募集制度を包括的に見直すことで、発行体による同制度の活用と要件の遵守がし易くなることから、投資家保護の水準も向上するという考え方の下、採択された。すなわち、エグゼンプト・オファリング規則は、発行体による効率的な制度活用の促進こそ、リスクマネーの循環を促すという理念に基づく規制改革であると言える。今後、日本においても、発行体による効率的な制度活用の促進という観点で、公募及び私募制度の改革が進展することが期待される。